Web2.0(笑)の広告学 クチコミの担い手はあなたの隣に 〜インフルエンサー・マーケティングとしてのインナー・ブランディング

2007年1月30日 須田 伸
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070126/117743/

 「クチコミ広告の強力な手法はないのか」「インフルエンサーをどうつかまえるか、だよね」。なるほど。ところで、自分の会社や作っている商品の話を友達や家族とすることって、普通にありませんか?

社外と社内のブリッジは、社員である

 「インフルエンサーマーケティング」という言葉が流行って久しいです。ご存じのとおり、ターゲットを絞って影響力のある人にメッセージを発信して、彼らを通じて大勢の人に広げていくコミュニケーションの方法を指す言葉です。多くの場合、「インフルエンサー」とは、メディア関係者であったり、著名人だったり、最近では有力ブロガーなどを指します。もちろん企業や商品、業界によって、さまざまなインフルエンサーが存在します。その中でもついつい見落としがちな重要なインフルエンサーが、その企業の従業員です。

 社外へのコミュニケーションの「ブリッジ」として社内でのコミュニケーション活動を見直してみると、いろいろな変化が出てきます。

 とりわけ多くの社員がブログを書いていたり、SNSで活発に発言をするようになっている現在、社内における「インナー・ブランディング」は、企業文化や商品・サービスを社会へ広げていくうえでの重要なゲートウェイになるはずです。

 もちろんオンライン上での発言だけでなく、取引先の人たち、家族や友人、出身校の先輩や後輩たちとのリアルなコミュニケーション機会での「うちの会社ってこうなんだよね。こんなサービスがあってね」といった何気ない言葉も、徐々に伝播していきます。

 下手をすれば社外秘情報の漏洩というリスクと表裏一体な部分もありますから、慎重に考えなければならないのですが、無視することのできない重要なコミュニケーション回路であることは事実です。

 この連載ではあまり自分の直接の仕事については書いてこなかったのですが、今回は私が、サイバーエージェントで関わってきたインフルエンサーマーケティングとしてのインナー・ブランディングのことを、少しご紹介しようと思います。

赤いロゴから緑のアメーバに

 もう5年以上前ですが、私がサイバーエージェントへやってきて、最初に手がけた仕事の1つが、会社のシンボルであるロゴマークを新しくすることでした。

 「サイバーエージェント」という会社の知名度やブランドイメージを高めていきたいものの、マスメディアで大々的に広告を展開するような予算はない。

 そこで、組織の中にいる人、つまり社員やアルバイトといった人々を介して、会社のブランドを広げていく、そんなコミュニケーションの「きっかけ」になるロゴマークをつくろう、ということになりました。

 ただし、単純にカッコいい、あるいはとんがったロゴマークを作ればいい…わけではありません。実際の企業文化とかけ離れたものではなく、会社にある雰囲気、風土から自然と生まれてきた、文脈、ストーリーを持ち、なおかつインパクトを持つものであることが重要でした。

 「仕事を通じて自らの可能性のかぎり成長したい」という空気が満ちているサイバーエージェントの風土から「アメーバ」というコンセプトが生まれたのです。

とはいえ、従来のロゴは赤色で「CyberAgent」の「C」「A」をかたどったもの。

そこからいきなり緑色の、ヘンテコな形のロゴになったわけですから、誰もが驚いたようです。

 「アメーバのように、自由に、大きく、成長していこう、ということです」と説明をつけて社内で発表したのですが、最初は「アメーバって、なんかネバネバしてるみたいで気持ち悪い」と思った人も少なからずいました。

 そのかわり「なんだか普通だな」と思った社員は少なく、「好き」にしろ「嫌い」にしろ無視はできない、会話の中で自然と話題になる、コミュニケーションの「きっかけ」としての役割は目論見どおり最初から果たしてくれました。

 新しいロゴの案はほかにもいくつもあったのですが、正直、一番実現性が低いかなと思っていたのがアメーバ案でした。やはりインパクトが強いだけに、選択するには勇気がいるからです。

 ただこれはその後のさまざまな制作物においてもそうだったのですが、組織のトップである社長の藤田(晋)の「これがいい。これでいこう」という明快な決断があったからこそ可能になったものでした。デザインの選択においては合議制で大勢の意見を取り入れていくよりも、トップが決断したほうが確実に強いものになります。

 こうして社名とロゴは「アメーバのように成長する」というコンセプトも含め徐々に浸透していったのです。

インターネットの会社なのに「紙」にこだわる

 ロゴを変えて数年がたち、インターネット業界の成長に合わせて、会社の規模も知名度も上がってきた頃、「最近、入社してくる人の中には、サイバーエージェントベンチャーではなく、大企業に入ったように思っている人がいる。もう一度、原点を確かめるものをつくれないか?」と藤田に相談されてつくったのが、行動規範の書、「maxims」です。

 8カ条あるのですが、そこで語られていることは、すなわち「ベンチャースピリットを忘れるなかれ」ということです。完成した「maxims」は、インターネットやイントラネットに公開して社員に見てもらうという、いかにもインターネット企業らしい方法はとりませんでした。

 あえて、紙にこだわり、手に取れるものにしました。

 サイズも常に携帯できるサイズにということで、社員が持ち歩くセキュリティカードホルダーに収納可能なサイズの豆本にしました。

 多くの情報がメールやメッセンジャーで飛び交い、イントラネットで閲覧するようになっている会社だからこそ、印刷された豆本というのは目立ちます。

 それに加えて、人に見せたくなるデザインであることも重要でした。

 アメーバのロゴを開発する時から大きく関わってきてくれているデザインユニット「BloodTube」が、maxims制作においても力を貸してくれました。

 当初は豆本としてだけ配布したmaximsですが、現在ではネット上でも公開しています。全文を読んでみたいという方は、サイバーエージェントのホームページでご覧ください(こちらから)。

 多くの社員がこのmaximsを、定期的に読み返し、さらに自分のブログやSNSの日記で紹介しています。

 ネットの会社なのに、あえて紙でつくったことで、社内で話題になり、さらにネットで広がっていく。そんなサイクルが生まれたのです。

逆さ文字でトイレ・コミュニケーション

 maximsが「ベンチャースピリットを忘れるな」というメッセージを社員に伝えるためのツールであった一方で、企業のモラルが問われる事件が相次いで発生したことを受けて「会社のルール」を定めたのが「ミッションステートメント」です。

 これをどうやって広げていくか。
 「ルールを守ろう」と言うだけでは単なるお題目です。
 やはり伝える方法にクリエイティビティが求められます。

 豆本という手法はmaximsで使っていますから、社内から「また同じ手かよ」と言われるのはなんとしても避けたい。

 考えたコミュニケーションの場所は「トイレ」です。
 トイレの壁に社員に向けてメッセージを書くことにしました。

 しかし「トイレの壁なんてまるで質の低い落書きじゃないか」という反応も容易に想像できるわけで、ここでクリエイティブとしてのアイデアが必要でした。

 それはトイレの鏡の反対側の壁に逆さ文字で描くことで、直接見ても読めない文字が、鏡に映る自分と一緒に見えるメッセージにするということでした。

トイレの鏡の反対側の壁に逆さ文字で描く社員に向けてのメッセージ

 自分自身を見つめる時に、会社からのルールをあらためて確認してほしい。

 そんな思いから生まれたアイデアです。

 「ミッションステートメント」も現在はネット上で全文を公開しています(ただし鏡に映さなくても読める普通の文字です)。こちらです。

 サイバーエージェント社員の名刺にも「コミュニケーションツール」としての工夫が施されています。

 社外の方との初対面の挨拶で欠かせないのが「名刺交換」ですから、ここでコミュニケーションブリッジとしての役割を担えるものにしようと設計しました。

 名刺の片面には、社員名や役職、会社の住所、電話番号、メールアドレスといった必要な情報がすべて記載されています。

 そしてもう1面は5組の著名なクリエーターによる作品が5パターン用意されており、社員は好みのデザインを1つチョイスして持つことができるのです。

 5組のクリエーターは、前述のBloodTubeに加えて、秋山具義さん、武田双雲さん、NIGOさん、箭内道彦さんです。
BloodTube、秋山具義さん、武田双雲さん、NIGOさん、箭内道彦さんによる5パターン用意された名詞

 社員に対して「会社の名刺でこんな自由にやっちゃっていいんだ」ということで、仕事においても創造性を発揮してほしいというメッセージと、「面白い会社だな」と名刺を受け取った社外の方にも感じてもらう、そんなコミュニケーションツールとして設計したのです。
アメーバに目がついて、ブログに。化粧まわしに。ビルボード

 サイバーエージェントが、ブログサービスに本格参入する時に、アメーバはコンセプトから「名称」として表に飛び出していくことになりました。

 具体的には、アメーバロゴに目がついて「人格」を持ったのです。

 アメーバブログ、通称アメブロは、国内屈指のブログサービスとして現在も利用者を増やしています。それと同時にコンセプトとして裏方だった「アメーバ」がいつしか世の中に拡大しているのです。

 アメーバロゴから生まれたキャラクター「アメーバくん」は、日本の国技である相撲において「ブログ力士」として知られる普天王関の化粧まわしに、しこを踏む姿で登場しています。

アメーバロゴから生まれたキャラクター「アメーバくん」は普天王関の化粧まわしに

 サイバーエージェントの「地元」である渋谷においては、駅構内のビルボードで、女子高生にケータイでも使えるアメブロをおすすめしています。
駅構内のビルボードで、女子高生にケータイでも使えるアメブロをおすすめ

 すべては、緑のロゴの「インナー・ブランディング」から始まったのです。インナーブランディングが社内に浸透して、社外でも知られるようになり、やがて一般サービスになり、さらに広がっているのです。

 これも「アメーバ」というものが、どこかからの借り物や、無理矢理つくったものではない、会社の風土を見つめる中から生まれたものだからこそ、長く使えるし、広がっているのだろうと考えています。

 「インナー・ブランディング」の具体的な方法は、それぞれの会社によって異なるはずです。なので、サイバーエージェントで実施した方法がそのまま当てはまる会社というのも存在しないでしょう。

 ただ人が集まって「会社」という集団をつくる時に、そこには不思議な人と人が引き起こす「化学反応」によって独特のカルチャーのようなものが生まれます。

 インナーブランディングは、そこを起点に設計することで、社員というインフルエンサーを通じて、社内からやがて社外へと広がっていくのだと思います。

Web2.0的キーマンに聞く トヨタ川本氏に聞く、bBのプロモーションで見せたWebキャンペーンの狙い

http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/web2/2007/01/23/9421.html

 今回のゲストは、トヨタ自動車株式会社宣伝部の川本氏です。トヨタは最近、bBという若者向けの車を「トヨタのミュージックプレイヤー」として発表し話題を呼びましたが、このbBのプロモーションは従来とは異なり、Webを軸としたキャンペーンを展開したとのことです。トヨタという日本を代表するモノ作りの会社がWeb 2.0という新しいトレンドをどのように活用しているのか、A&P(アドバタイジング&プロモーション)の分野での事例を伺いました。

■WebはAISASにまたがるメディア

―まずは自己紹介をお願いできますか?

川本氏
 2002年にトヨタに入社して以来、宣伝部におります。最初は広告制作を担当しておりましたが、2004年1月にメディアに関わる業務に異動し、現在では新聞、雑誌、Web、屋外広告のメディアプランニングを担当しております。

―テレビは担当外なのでしょうか?

川本氏
 はい、テレビ、ラジオは別の担当がおります。

トヨタにとってWebとはどのようなメディアなのでしょか?

川本氏
 今、世の中の購買行動が、AIDMAからAISASへ、つまりAttention(注意喚起)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(商品を記憶)、Action(購買)から、Webが追加されることで、Attention(注意喚起)、Interest(関心)、 Search(商品を検索)、Action(購買)、Share(クチコミとして共有)、という流れに変わってきていると言われております。

 Webは、このAISASの全フェーズでその力を発揮できるメディアであると考えますが、これは、視聴者が能動的に接触できる要素が多いというWebの基本特性によるものではないでしょうか。

―同感です。

川本氏
 そもそも自動車メーカーが広告キャンペーンを展開するタイミングとして、新型車発表の際が多いのですが、これまでは、テレビCMなど、認知に直接影響を与える媒体を中心に広告展開をしていくことが常とう手段でありました。bBの場合は、どうしたら多くの方にWebサイトにきていただけるか、ということを軸にキャンペーン構築をしたこと、またそのサイトの中心にサウンドブログを据えたことが新しい試みと考えております。

―普段と異なる広告のパターンを採択するときに、社内で反対意見はありませんでしたか?

川本氏
 あまりなかったと思います。bBの場合は、20代の若手社員でプロジェクトチームを組み、若年層の方々にどうやってbBの魅力を伝えていくか、ということを必死に考えました。そのチームの中での私の役目は、メディアプランニングのサポートでした。当キャンペーンについて社内で説明する際に、上司の中で「俺たちに理解できない部分があってもいいじゃないか」という風潮があったように思います。

―具体的にbBのキャンペーン手法を説明いただけますか?

川本氏
 20代の情報収集パターンを徹底的に調査した結果、広告メッセージよりも、友人、知人の意見や、クチコミなどを重視するといった傾向があることがわかりましたので、いかにクチコミを喚起できるか、ということを中心に考えました。

 キーワードは、「日本初というインパクト」と「情報飢餓感」の2つです。

 1つ目のインパクトという観点では、例えば、若年層の生活に欠かせない音楽をテーマとして、街頭やクラブでのプロモーションを実施したり、キャンペーン楽曲でマッシュアップという手法を活用したり工夫しました。マッシュアップは、最初は布袋寅泰さんとリップスライムさんの楽曲、続いて米米 CLUBさんとHOMEMADE家族さんのそれを次々にテレビCMに乗せて放映し、これ何?と関心を持っていただくことを考えたわけです。

 2つ目の情報飢餓感では、ティザー期のテレビCMの流し方を特殊なものとしました。5秒CMです。通常のCMは15秒、30秒といったものですが、今回は5秒の超短CMを、若年層の視聴帯に合致する深夜に流し、内容は「トヨタのミュージックプレイヤー発売」という文字とURLのみです。結果、「トヨタiPodのような音楽プレイヤーを出すのか」といった憶測が流れたことや、話題を呼ぶきっかけになったという感触を持っております。

 また、広告を見て関心を持っていただいた方が、何回もWebサイトに訪れていただけるよう、サウンドブログをサイトの中心に据えた、ということです。

―Webに人を集め、ブログなどでリピーターを作る、という手法ですね。

川本氏
 bBの場合、テレビ、新聞、雑誌など、皆さんに見ていただける媒体での広告展開にとどまらず、先ほどもお話したように、局地的な屋外広告やクラブイベントを多く実施しました。これらの情報を随時アップでき、皆さんに見ていただけるサウンドブログは、今回のキャンペーンの核といえますね。

■Webを核としたプロモーションに全面移行することは、今のところ考えていない

―ブログを活用したのはbBが初めてのケースですか?

川本氏
 いえ、初めて使ったのは2005年10月で、ラクティスという新車の発表時です。開発責任者であるチーフエンジニアがブログを書いて公開しておりました。

―今後もこのようなキャンペーン手法を続けていくおつもりでしょうか?

川本氏
 若年層に向けた広告では、同じような手法を使っていく可能性はあります。Webを広告キャンペーンの中でどう使っていくのかは、キャンペーンの方向性次第ですので、それさえ合えば、若年層向け以外の広告キャンペーンでも使っていくこともあると思います。皆さまのメディアとの接触状況や、今後のメディア環境をウォッチし、その時々に合ったWebの活用方法を考えていきたいですね。

検索連動型広告などは活用されていますか?

川本氏
 車の広告でも実施しておりますが、主に活用しているのは、関連事業の広告です。関連事業、特に車買取りのT-UPやレンタカーなどは、お客様が検索される際の目的や用途がある程度絞ることができますので、検索連動型広告に、比較的向いているのではないかと考えます。

Web 2.0トヨタ

Web 2.0の動きをどのように意識されているのでしょうか?

川本氏
 広告の観点では、2つのことを意識しております。どちらも広告の費用対効果に関することです。

 1つは、細分化というとらえ方です。マーケティング上の広告ターゲットに画一的なメッセージを発信するのではなく、Webの最新技術を活用することで、複数あるターゲット層それぞれに合致すると考えられるメッセージを、層ごとにきめ細かく発信していきたい、ということです。

 2つ目は、情報波及効果です。これまでは基本的に、広告費に相当する露出量の確保、という考え方がありましたが、広告を視聴された方同士の情報交換などが期待できるブログやSNSなどのツールを活用し、投資を上回る情報波及をうまく図っていければと思っております。

 効率と効果、という基本的な2つの観点から、Web 2.0の技術やツールを順次広告に活用し始めておりますし、また、今後のWeb 2.0の動向に期待を寄せております。車とWebは親和性が高いと思っておりますので。

―それはなぜですか?

川本氏
 車はその商品特性から、商品を知っていただいてから、購入いただくまで、それなりの検討期間があると思っております。その過程の中に、Webでの情報接触、収集の機会が多くあるのではないかと。ですから、Webで提供する情報をきめ細かくしていくことや、より多くの情報がWeb上にあることは重要だと考えます。

 また、Webの利用が活発になり、大きなメディアとして浸透していく中で、テレビやラジオ、新聞、雑誌といった昔からあるメディアとどう組み合わせていくのか、さらにそれぞれのメディアの特性を活かしながら、どう相乗効果を出していくか。これらは大きな課題と考えております。

 そういう中でのトライアルとして、bBのキャンペーンがあったと考えております。

―確かにそのとおりですね。今後もぜひ、新しいプロモーション手法と、それに伴うWebの活用を示していただければと思います。今日はありがとうございました。

小川 浩(おがわ ひろし)2007/01/23 00:00

Web2.0(笑)の広告学 あなたのCMを全米ネットで流しませんか?

個人とマス広告のコラボが始まっている
2007年1月23日 火曜日 須田 伸
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070118/117184/

 アメリカンフットボールの全米プロNo.1を決定する試合、スーパーボウル。今年は2月4日にフロリダ州マイアミで開催されます。毎年9000万人以上がテレビ視聴する全米最大のスポーツイベントであるこのスポーツ中継は、世界で最も高額なテレビCM枠であり、さまざまな広告主と広告クリエイティブのショーケースとしても知られています。

 最近ではTivoのようなハードディスクレコーダーの普及が進む中で、テレビCMはスキップされるのではという声があるのですが、スーパーボウルの中で放送されるCMはむしろ主役の試合以上に注目を集めると言われるほどです。

 昨年のスーパーボウルの中の30秒CM枠の平均単価が250万ドル(約3億円)と言われており、この価格は年を追うごとに上がっています。30秒の映像を1回流すのに必要なお金が3億円ですから、さすが世界一高額なCM枠です。

 せっかく大金を出費しての広告枠なのですから、試合当日よりも前から企業ホームページなどを使って「この製品のCMが今年のスーパーボウルに登場します。ご期待ください」といった事前パブリシティにも活用したほうがいいのではないかと思うのですが、実際には逆の動きがあるようです。

注目されると、かえってネガティブに効く

 つまり、はたしてこの価格に見合うだけの効果があるのかと、社内外の関係者から責められることを恐れるスポンサー企業は事前にスーパーボウルの広告主であることをあまり喧伝したがらない。そんな記事がアドバタイジング・エイジ誌に載っていました。

 目立つために購入したCMのことを、目立たないようにする。なんとも皮肉な話です。

 さらにテレビCMの内容も、大勢の人がブログやSNSで分析、論評するので、下手なものをつくるとかえってマイナスイメージが発生する可能性すらあるというのです。

 そんなネガティブインパクトを恐れてなのか、それとも昨今の「Web2.0」の流れに乗ってなのか、広告のプロである広告会社ではなく、消費者にスーパーボウルで放送するCMのアイデアを考えてもらうという試みが広がっています。少なくとも、お菓子のドリトス、自動車のシボレー、そして試合の主催者であるNFL(米ナショナルプロフットボールリーグ)のテレビCMは、何らかの形で消費者からCMのアイデアを募っており、「消費者参加のプロセス」を経て完成したCM作品が放送される予定です。

NFLのテレビCMは「消費者×ベテラン監督」

 NFLのテレビCMは、昨年の11月にアイデアを一般公募することが発表され、応募を受け付けていたのですが、先日「受賞アイデア」が発表されました。

 「NFLファンも、つらいよ(It's hard for us, too)」というニューハンプシャー州在住の男性、ジノ・ボーナさんのアイデアは、7カ月のシーズンオフの間、週末の暇を持て余す熱狂的なNFLファンたちのみじめな姿を描くという作品なのだとか。

 アイデアは公募でしたが、実際の制作は業界のプロ中のプロが行います。

 監督はCM界の巨匠として知られるジョー・ピトカ氏(Joe Pytka)です。

 全部を消費者にまかせるのではなく、ピトカ氏のようなプロフェッショナルと消費者のアイデアをコラボレーションさせることによって、完成度の高い作品に仕上げ、リスクを軽減しているとも言えます。

 最終的な出来がどうなるのか。それは2月4日に明らかになります。日本のテレビ放送ではアメリカのCMを見ることはできませんが、試合終了後にはインターネット上で公開されるので、数時間の時差でチェックできるでしょう。

 果たして制作プロセスのユニークさに匹敵するクオリティに仕上がるのか、今から注目されます。

CBSYouTubeを使って募集している「15秒メッセージ」

 CMではないのですが、消費者から動画を募集するユニークな試みとしてもう1つ紹介したいのが、アメリカの4大ネットワーク局の1つCBSが動画投稿サイトのYouTube(ユーチューブ)と協力して展開している「15秒メッセージ」です。

 大枠を説明すると「あなたが世界に伝えたいメッセージを15秒の作品にしてYouTubeにアップしてください。選ばれた作品はCBSで放送されます」というもの。

 既にYouTube上には「青年の主張的なストレートメッセージ」から「意味不明なアート作品」まで、いろいろな「15秒メッセージ」が投稿されており、閲覧することができます。

 CBSは、昨年からYouTubeと提携して、さまざまな自社のテレビ番組の素材を「CBS Brand Channel」として、YouTubeで視聴可能にしているのですが、その結果としてYouTube上での人気だけでなく、一部の番組のテレビ放送の視聴率が向上するなど、ネットからテレビへの「視聴者の誘導」という面でもプラスの相乗効果が出ています。

 今回はさらに一歩踏み込んで、CBSで放送する素材をYouTube利用者から募るという、新しい試みなのです。

 1回目の選出作品の放送予定日は、スーパーボウルの開催日である2月4日です。

 2007年2月4日は、CGM(consumer generated media)とテレビのコラボレーションの日として記憶されることになるかもしれません。

CGMとテレビの連動、日本では?

 まだ日本でアメリカのような事例が出ていない理由は複数あると思うのですが、1つには、消費者の関与度合いが高まることによる「計算の立たなさ」を嫌う傾向がまだまだ強いからではないでしょうか。

 計算が立たないことはリスクである一方で、視聴者にとって「予定調和ではないアンバランスさ」という魅力を増す効果もあるので、今後は徐々に日本でも「CGM×テレビ」という動きが活発化すると思います。

 動画素材そのものをユーザーに制作してもらうものから、アイデアだけを募集して制作はプロが行うものまで、具体的な手法はいろいろあると思いますが、何らかの形で「制作プロセス」に消費者に参加してもらい、テレビという強力な発信装置に乗せるという試みは、きっと出てくるでしょう。

 例えば現在放送中のテレビドラマには、もともとはネット上のCGMで生まれたコンテンツが書籍化され、ドラマになったという作品が、「きらきら研修医」「今週、妻が浮気します」など複数あります。過去にも「電車男」や「実録鬼嫁日記」などがありました。ネットとテレビはとりわけ番組内において連携するケースがどんどん増えており、今後この流れがテレビCMにも広がっていくのは間違いありません。

 最後に検索窓が出てきて「続きはネットで、○○と検索してください」という連携以上の踏み込んだコラボレーションが生み出されるはずです。例えば、NFLのようにCMプランのアイデアを募集する、CBSのようにあるテーマに関する映像をホームビデオやデジカメなどで撮影してもらう、あるいは複数の企画からテレビで放送する1本を決定するプロセスに参加してもらう、などなど。

 しかし、手法がいわゆる「2.0」、消費者参加型になったからといって、クリエイティブの結果も素晴らしいものになるか、というと、当然ながらそうとは言い切れないのが、やはり難しいところです。

 プロセスを含めてのエンターテインメントであり、コミュニケーションということもある一方で、どんなプロセスを経ていても最終的な「面白いか、面白くないか」「役に立つか、役に立たないか」に勝る価値はない、というのもまた事実ですから。

「1.0」高品質エンターテインメントへの需要の高まりも

 2006年からの流れで「いっしょにつくる」、「2.0」の勢いは今年も続くでしょうし、広告における新しい試みも増えるでしょう。

 一方で「おもしろい1.0」は「つまらない2.0」に勝つ、という確認作業もまた2007年になされるだろうと思います。

 つまりは「何でも参加型であればいい」ということではない、という至極当然のことなのですが。

 CGMの面白さ、楽しさは、引き続き追求され、一部の秀逸なCGMやそれによる作品がクチコミで広まって話題になる一方で、CGM的要素のかけらもなくても、面白く、強いコンテンツの価値が確認される場面もたくさん出てくるでしょう。強いエンターテインメントが皆の話題になって、クチコミに乗っていく。「1.0」が「2.0」の誘引になる事例も出てくる。

・大量の玉石混交の中で磨かれていく、CGM発掘プロセスから生まれるヒット
・プロのスナイパーの一撃のような、圧倒的なクリエイティブから生まれるヒット

 この2極化の先端事例を、目を見開いて探していこうと思います。

Movable Type を始める前に設定しておきたい 10 の項目

Posted at January 22,2007 12:30 AM
http://www.koikikukan.com/archives/2007/01/22-003030.php

Movable Type を初めてご利用になる方のために、「これだけは最初に設定しておきたい」という 10 項目を挙げてみました。1項から8項は設定の流れを考えて順序づけをしました。最後の2項目の優先度は低いですが、「そういう機能もあります」という意味で掲載しています。

「全てが必須」という意味ではありません。不要と思われる項目はスキップしてください。

1.管理画面を「詳細モード」に切り替える

Movable Type の管理画面は「基本モード」と「詳細モード」の2種類があり、デフォルトは「基本モード」になっています。この状態では基本設定とプラグインの一覧しか表示されないため、コメント・トラックバックの受信設定や後に述べるアーカイブページのパス等や拡張子が変更できません。

ということで、管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ右上にある、「基本モード」のリンクをクリックして「詳細モード」に切り替えておきましょう。

2.アーカイブディレクトリを作成する

Movable Type では再構築(ページの生成)を実行すると、メインページの他、各アーカイブページ(カテゴリー・アーカイブ/月別アーカイブ/エントリー・アーカイブ等)が生成されます。これらのページはメインページのあるディレクトリ直下に作られます。例えば 2007年1月の月別アーカイブは 2007/01/index.html となります。

月別アーカイブだけなら良いですが、カテゴリー・アーカイブはカテゴリー別にディレクトリが生成されるため、デフォルト状態で再構築すると、メインページのあるディレクトリがアーカイブページ用のディレクトリだらけになります。
ということで、アーカイブディレクトリ archives を作成することをお勧めします。

1項で新しく表示されたメニューより「公開」をクリック

次のページで「アーカイブの設定」のチェックボックスをチェックして、その下に表示された「アーカイブURL」「アーカイブ・パス」を設定。設定内容は、そのすぐ上に表示されている「サイトURL」「サイト・パス」に任意のディレクトリ名(ここでは archives)を末尾に加えます。

設定したらページ一番下にある「変更を保存」をクリック。

3.拡張子を .php にする

Movable Type では、PHP が利用できることを前提としたユーザ独自のカスタマイズ(モジュール化、ページ分割やパンくずリスト等)がいくつかあります。

Movable Type をある程度使いこなし、これらのカスタマイズを利用する段階になってファイルの 拡張子を .html から .php に変更すると、あるページが他のサイトからリンクされている場合、その URL はデッドリンクとなります。また Google 検索結果にも影響があると思われます。

インストールして、使い始めたばかりの状態では PHP は無関係かもしれませんが、いずれ利用する可能性があることを考え、拡張子を php にしておくことをお勧めします。*1

メインページの拡張子を変更する場合は、管理画面左の「テンプレート」をクリック。次のページで「メインページ」のリンクをクリック。

テンプレート編集画面上にある「出力ファイル名」を index.html から index.php に変更し、「保存と再構築」をクリックします。

インデックス・テンプレートにある「アーカイブページ」も同じ要領で変更してください。

アーカイブページの拡張子を変更するには、管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ上にあるメニューより「公開」のリンクをクリックし、次のページで「アーカイブの拡張子」を html から php に変更します。

なお PHP化した場合は、「HTTP/1.1 の「条件付きGET」を利用して PHP ファイルアクセスによるサーバ負荷を削減する」の設定を併せて行うことを強く推奨します。

4.エントリー・アーカイブのパス・ファイル名を変更する

エントリー・アーカイブは、「パーマリンク」と呼ばれる、個別記事に紐づけられた URL が割り当てられるページです。このエントリー・アーカイブの URL はできる限り永続的である(=URLが変わらない)ことが望ましい訳です。

ところが、デフォルトの状態でエントリーを投稿した場合、ファイルの URL はパーマリンクとするにはあまり相応しいものではありません(関連記事「エントリー・アーカイブファイル名の不具合を解消する」)。

ということで、エントリー・アーカイブのファイル名にはエントリー作成年月日時分(秒)がよく使われています。いわゆる「
タイムスタンプ」をファイル名に利用することで、バックアップからブログを作り直した時も同じ URL を再生することができます。

変更方法は、管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ上にある「公開」をクリック。

ページ一番下にある、「アーカイブマッピング」の「エントリー」欄の「出力フォーマット」のプルダウンメニューを開いて、一番したの「カスタマイズする」を選択。

出力フォーマット欄が手入力できるようになるので、下記を設定。

%y/%m/%d%h%n%s%x
設定後、「変更を保存」をクリックします。

5.更新Pingを設定する

更新 Ping は、エントリーを新たに投稿した時に「ブログを更新しましたよ」というお知らせを外部に通知するための仕組みです。
Google 等の検索でもサイトを訪問される方はいますが、検索結果に反映されるまでにはタイムラグがあります。この更新 Ping を使った通知を行うことで、より迅速にあなたのブログの更新が外部に知らされ、他の方の目に触れる機会が増えることでしょう。

設定方法は、まず管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ上にある「新規投稿」をクリック。

「更新を自動通知する先」のチェックボックスをすべてクリックし、さらにその下のテキストエリアに更新 Ping 送信先の URL(後述) を設定します。URL を複数設定する場合は改行をいれてください。

更新 Ping 送信先については、例えば下記が参考になるでしょう。

その他、Google 検索等で「更新 ping 一覧」で検索すれば色々みつかると思います。

6.スタイルシートの自動再構築を無効にする

インデックス・テンプレート(メインページ等)には、それらの再構築を行った時、同時に他のインデックス・テンプレート、例えば RSS 2.0(index.xml)の再構築をする・しないというオプションがテンプレート毎にあります。つまり、エントリー投稿等で Movable Type が自動的にメインページやエントリー・アーカイブ等を更新した時に「何を自動生成しますか?」という制御ができます。
インデックス・テンプレートについては、デフォルト状態では全て自動生成対象になります。

このインデックス・テンプレートの中には「スタイルシート」もありますが、スタイルシートはインデックス・テンプレートの再構築と連動して再構築される必要はありません。静的な情報しかないためです(ただし1度は必ず再構築し、物理的なファイルを生成してください)。
自動生成を無効にすることで Movable Type の再構築処理を僅かながら減らすことができます。

無効にするには、管理画面左の「テンプレート」をクリックし、次のページにある「スタイルシート」をクリック。

次の編集ページ右上にある「再構築オプション」のチェックをはずし、一番下の「保存」をクリックします。

7.コメント/トラックバックを無条件に受信する

Movable Type の機能のひとつに、コメント・トラックバックがありますが、Movable Type をインストールした直後は、投稿したコメント・受信したトラックバックは、管理者が承認しないと公開されない状態になってしまいます。したがって、とりあえず動作確認したいという場合は、一旦無条件に受信できる設定にするといいでしょう。

ちなみに、デフォルト状態でコメントを投稿すると、承認待ち画面にジャンプします。そして管理者はそのコメントを公開する場合、承認作業が必要になります。またデフォルト状態でテンプレートを入れ替え、コメント投稿すると同様に承認待ち画面にジャンプしますが、テンプレートを一気に入れ替えないと承認待ち画面のスタイルが崩れ、戸惑うおそれがあります。
ということでデフォルト状態では色々面倒なので、個人的には承認機能については後で設定して少しずつ覚えていけば良いと思います。

変更方法は、まず管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ上にある「コメント・トラックバック」をクリック。

コメントについては、「投稿を受け付ける条件」で「すべて」を選択(デフォルトでそうなっていると思います)、

また、「即時に公開するコメント」で「すべて」を選択、

トラックバックについては、「トラックバックを受信」をチェック(デフォルトでそうなっていると思います)、そして「事前確認」のチェックを外してください。

すべて設定したら一番下の「変更を保存」をクリックしてください。

8.エントリー投稿画面をカスタマイズする

デフォルトのエントリー投稿(および編集)画面では、タイトルと本文、そして公開する・しないの3種類の設定しかなく、
* カテゴリー
* 概要
* 追記
* タグ
* コメント・トラックバックの受信設定
等の制御ができません。特にカテゴリーやタグはエントリーを公開する時に同時に設定しておきたい項目です。

これらを表示させるには、管理画面左の「新規エントリー」をクリックし、エントリー投稿画面下にある「画面の表示設定を変更」のリンクをクリック

表示されたポップアップ画面で、表示させたい項目を選択・保存します。「カスタム」を選択すると、項目毎に表示・非表示を設定できます。

あと、ポップアップ画面下にある「アクション・バー」は「両方」を選択しておくと、エントリー編集画面のフォームボタンがテキストエリアの上下に表示されて便利です。

9.コメントに TypeKey を利用する

TypeKey はコメント投稿におけるオンライン認証システムです。Movable Type のコメント投稿でこのオンライン認証を有効にして、コメント投稿者をTypeLey 認証者だけに制限すれば、スパムコメントを防ぐことも可能です。

詳細な説明は省略しますが、この機能は早めに設定しておいた方がいいでしょう。

まず、TypeKey アカウント新規作成のページで TypeKey のアカウントを取得します。

その後、管理画面左の「設定」をクリックし、次のページ上にある「コメント・トラックバック」をクリック。

「認証サービスの設定」をクリック。

TypeKeyのログイン画面が表示されるのでログイン(この画面はスキップされるかもしれません)。

次の画面で「return to Movable Type」のリンクをクリック。

元の画面のテキストエリアに認証用トークン(乱数)が入力されていればOKです。

この後、「変更を保存」をクリックし、ページ上に表示された「インデックス・テンプレートの再構築」を必ず行ってください。

10.クリエイティブ・コモンズ ライセンスを設定する

著作権表示をするのもいいですが、他での著作物の利用を明示的に認めたい場合は「クリエイティブ・コモンズ ライセンス」が有効です。

これを設定するとサイドバー下にクリエイティブ・コモンズのバナーが表示され、それをクリックするとサイトの著作物に関する利用条件が表示されます。

設定方法は管理画面左の「設定」をクリックして、次のページ一番下にある「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」の「ライセンスを設定する」のリンクをクリック。

ポップアップウィンドウが表示されるので、利用条件とライセンスの管轄地を選択して、「ライセンスを選ぶ」をクリック。

ライセンスが適用された旨の表示がされるので、一番下の「proceed」をクリック。

元の設定画面に設定されたライセンスが表示されます。

「変更を保存」をクリックするとバナーも表示されます。バナー画像は利用条件によって異なります。
設定した後で利用条件を変更したい・ライセンスを削除したい場合は、管理画面に表示されたバナー下にあるリンクをクリックしてください。

以上です。

その他、「テンプレートをファイルで保存する」というのも候補に挙げてましたが、カスタマイズ前の状態ということで除外しました。

メディアグルーヴ『マジカルメーカー』

http://www.media-groove.co.jp/products_mm_dounyu.html
ブログ利用者の画像コンテンツを手軽にFlashを使ってリッチコンテンツ化できるFlash作成ツール
ブログの管理画面から起動し写真をアップロードして動くペン文字やアイテムなどで装飾可能
⇒それをブログ記事内や通常ホームページへ貼り付けられる

Web2.0(笑)の広告学「崩壊するマス広告」〜16年前の『広告進化論』に書いてあったこと

2007年1月15日 須田 伸
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070112/116807/

 年末に実家に戻った時に、かつての自室の本棚から『広告進化論』(森俊範著 TBSブリタニカ ※当時。現阪急コミュニケーションズ)という本を見つけて手に取りました。

 奥付を見ると1990年10月4日初版とあります。

 おそらく、学生時代の最後に広告会社に就職が決まって、にわかに買った広告関連の本の1つだったと思われます。「思われます」というのは、恥ずかしながらさっぱり記憶にないからです。中のページは汚れも少なく、買っただけで安心してしまい、ちゃんと読まないまま本棚に眠っていたのでしょう。

 今、こんなタイトルで出版されれば、『ウェブ進化論』にあやかりたいのだろうと言われかねないのですが、何しろ16年前につけられたタイトルですから、こちらのほうが先輩です(もちろん本家はダーウィンですけど)。

 しかし驚いたのはタイトル以上にその内容です。

16年前の内容のはずが…

 「16年以上も前に書かれた広告進化論って何が書いてあったのだろう?」と思ってパラパラとページをめくってビックリです。

 全部で5章からなる「広告進化論」ですが、その章タイトルは以下のとおりです。

第1章 崩壊するマスメディア広告
第2章 情報化社会が生み出す情報不足
第3章 逆流しはじめた広告情報
第4章 メディア革命による広告の激変
第5章 「逆方向広告」の誕生

 今、「広告進化論」というタイトルで出版されたとしても不思議ではない内容だと思いませんか。

 各章の中の小項目タイトルも「広告が効かない」「コマーシャル飛ばし見が意味するもの」「パブリシティは、どこまで効果的か」「広告よりも強いくちコミ効果」「誰もが情報コーディネイター」「パーソナルメディアがもたらす意識革命」「生活者情報は、大きな影響力をもつ」「参加型消費社会の到来」といった具合です。

 ハードディスクレコーダーも、インターネットの一般利用もない時代に書かれた本だというのに、実に2007年的であることに衝撃を受けました。

 これを、「16年も前に指摘された変化の大きな潮流だ」と見るか、「16年前から騒いでいるだけで実はあんまり変わってないんじゃないか」と見るか。

 まったく正反対の解釈のようにも思えますが、私はどちらも正しいと考えます。つまり「変わっているようで変わっていないし、変わっていないようで変わっている」ということです。

 そしてここから何を学ぶべきか。

 ひとつには、「テレビCMはもう効かない」と決めつけてしまうことも、「Web2.0なんて単なるバブル」と決めつけてしまうことも、どちらも非常に危険だということ。

 進化は、白か黒かの二元的なものではなく、もっと複合的かつ、漸次的なものと読み取るべきです。だから16年前の「進化論」に学ぶ点が今でもたくさんあるのです。

紅白のアレ、見ましたか?

 例えば紅白歌合戦の視聴率が1960年代、70年代のピーク時に比較して下がっているのは事実ですが、ダンサーの「裸に見える」衣装がニュースになり、文部科学省の大臣が不快感を示す、ということは、現在においてもそれなりの影響力があるという証明でもあります。

 紅白歌合戦を「注目を集めるのにハプニングを必要としているかつての国民的行事番組」と見るか「メディアが分散化する中で現在も続いている数少ない国民的行事番組」と受け取るか。

 ここでもやはり、どちらも「半分正しい」と見るべきでしょう。

 このコラムにおいても、変化について書くことが多いわけですが、それは決して「一晩でガラリと変わる」といったものではなく、海岸に打ち寄せる波の影響のように行ったりきたりを繰り返しながら、徐々に形が変わっていくものだと思います。

 これを踏まえて、2007年に私が考える変化のキーワードをあげてみようと思います。

じっくり ゆっくり のんびり

 変化を読み解くうえでも必要な態度だと思いますが、企業と消費者の対話がより重要になる中で「じっくり ゆっくり のんびり」という態度で企業側が消費者とつき合えるかどうか。これは今年の重要なキーワードになると考えます。

 効率優先で押しつけがましいコミュニケーションはこれまで以上に消費者に嫌われていきます。

 一方で激烈な競争環境にある企業は、自分たちのビジネスワールドにおけるペースを消費者とのコミュニケーションにも持ち込みがちです。

 しかしそんな慌しい社会に暮らしているからこそ、オフィスではビジネスマンであってもひとりの消費者に戻った時には、じっくり、ゆっくり、のんびりしたいという欲求は高まっており、それを無視したコミュニケーションは危険です。

 ただし、「待つ」というコミュニケーションは、広告がもっとも苦手とする態度です。

ついつい効率を求めてしまう

 ブロガーをうまく巻き込んでクチコミ効果を狙う時も、効率発想で考えてしまい、「ヤラセ」「ダマシ」など、フェイクブログとよばれる手段をとることにより、結果的に「炎上」してしまうケースは今年も起こるでしょう。

 それらの事故の原因は、企業と消費者の求めるスピードの違いからきているのだと思います。

 では、どちらが歩み寄るべきか?

 時代の大きな流れは企業が消費者に寄り添うべきという方向に向かっています。消費者に企業の売上目標や月次数字、締め日は関係ないのですから。矛盾しているようですが、売り上げ、利益をあげていくためにこそ、このことを再確認しておくべきでしょう。

「めしどこか たのむ」というリーダーシップ

 みんなが情報発信するCGM(consumer generated media)の時代において、リーダーシップが重要になる、というのは矛盾しているのではないか、と思われる方もいるかもしれません。

 しかし「何でもご自由にどうぞ」だと何をしていいのか戸惑ってしまう人が多いのも事実です。

 みんなが参加したくなるような「お題」を出す、ということも「リーダーシップ」です。「呼び水」「きっかけ」と言い換えてもいいかもしれません。

 どれほどの「リーダーシップが必要か」は、何をするかによっても変わってきます。

 例えば、リナックスは世界中のエンジニアが参加して創りあげているオペレーティングシステムとして知られていますが、「新しいOSを皆でつくろう」という掛け声だけでは現在の姿にはなっていないでしょう。「これつくってみたけど、どう思う? フリーウェアとして公開するから、どんどん修正をかけていってくれないか?」という原型をつくったことで、その後の「共創」が発生したと思うのです。

 「電車男」だって、最初の「めしどこか たのむ」という「きっかけ」があったわけで、「みんなで掲示板を使って何か恋愛ストーリーを書こうよ」と言っていたら、その後の盛り上がりは生まれなかったでしょう。

 「生協の白石さん」も、白石さんという「リーダー」なくしては存在しえないですよね。

 ただし、CGMの時代におけるリーダーシップは、マスメディア全盛時におけるリーダーシップとは異なります。

 「おまえら、ついてこい」ではなく「これちょっと、いじってみない?」だったり「それって、こういうこと?」です。

 押しつけ型ではない、提案型リーダーシップであり質問型リーダーシップです。

 一見、あなたまかせのようですが、「参加したいな」と思わせる「コア」の部分をつくるクリエイティビティは、非常に高度で、突発性や偶然性を生かすなど、従来の押しつけ型とは違ったスキルを必要としています。

 また、そもそもの「リーダーシップ」を企業や広告会社ではなく消費者がとるケースもあります。

2007年も対話とコラボレーションがキーに

 まもなく受験シーズン本番ですが、「受験生のお守りお菓子」としてすっかりお馴染みになった「キットカットで、きっと勝つ伝説」にしても、企業サイドによる受験生に向けた広告コミュニケーションとして始まったのではなく、消費者の中で長年にわたって醸成されてきた「新たな風習」に、企業側がうまく寄り添うことで相乗効果が生まれ、一般化した現象です。

 みんなが盛り上がるストーリーの「きっかけづくり」のリーダーシップを、企業ではなく消費者がとるケースは、今年もきっと見られるでしょう。

 そんな時、企業サイドが「勝手なことをされては困る」という態度では、せっかくのチャンスを潰してしまいかねませんし、手を差し伸べるにしても、消費者の温度とズレがあったのではかえって逆効果になる可能性もあります。

 情報が溢れる時代だからこそ、情報収集力、分析力、判断力が求められる。消費者に対してよく言われることですが、企業側もまったく同じです。

 「これを受け取れ」という一方通行ではなく、消費者の声に耳を傾け、手をつなぎ、対話を通じて、新しい価値を生み出す。対話とコラボレーションは、引き続き2007年の広告コミュニケーションのキーであることは間違いない。

 そして、それは16年前から予言されていました。寄せては返す波の末に、確実に現実になってきているのです。