「Web2.0ってそういうことだったのか会議」リポート

http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbe001020112006

 日本経済新聞社のIT分野の専門家コミュニティー「日経デジタルコア」が、「Web2.0ってそういうことだったのか会議」をテーマに討論会を17日都内で開いた。語り尽くされた感があるにもかかわらずいまだ理解が浸透していない「Web2.0」。日本でこの分野で先端を行くサービス事業者の責任者が集まり、ネットの「向こう側」の世界のあり方を、午後6時半から11時半まで徹底議論した。

 パネリストとして参加したのは産経新聞の双方向型ニュースサイトの開発を手がけたチームラボ社長の猪子寿之氏、Q&Aサイトなどのネットサービスを運営するはてな副社長の川崎裕一氏、ネット関連事業・ベンチャー投資のネットエイジグループ代表の小池聡氏、ブログサービスのシックスアパート社長の関信浩氏、旅行口コミサイトを運営するフォートラベル社長の津田全泰氏、化粧品口コミサイト「@コスメ」を運営するアイスタイル社長の吉松徹郎氏の計6人。

 パネリストは冒頭、Web2.0への考え方をそれぞれ披露した。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のミクシィ筆頭株主でもあるネットエイジグループの小池氏は、「Web2.0は米国では『次世代』と言っていることと同じ」と指摘し、もともと定義があいまいだと述べた。「以前のドットコムバブルは投資家が主導したが、Web2.0は技術者やユーザーが主導し、ネットの原点に戻った印象を受ける」とも話し、ユーザーの情報を「引き出す」仕組みの構築が成功のポイントだと説いた。さらに、国際会議では必ずWeb2.0を「Web two point oh」と読むと強調。『うぇぶにーてんぜろ』と読むのは恥ずかしい」と呼びかけたが、この日は誰も自然に読み方を変えられずに終わった。

 はてなの川崎氏も「Web2.0はハッタリ」として、「そもそも誰も明確な定義をしていない」と語った。一方、 Web2.0はビジネスにもなるとして、アマゾンが早くから取り組んで収益を生んでいることを指摘。今後は「トラフィックをどれだけ集めたか」ではなく「どれだけデータを流通させたか」に成功の評価軸が移るとの考え方を示した。

 アイスタイルの吉松氏は、SNSがはやり、ユーザーがブログを書かなくなったため、検索の対象外となるSNSにいくら情報が蓄積されても検索できないことを指摘。「ユーザー発信型コンテンツが増えてグーグルなどの検索サービスがあれば、あふれるコンテンツから欲しい情報を得られる」という考え方を否定した。そのうえで、@コスメのようにWeb2.0関連技術を使わず、特定分野に特化して一定のフォーマットで情報を蓄積するサービスこそが、「集合知」としての情報の価値を高めることになるとした。

 聴講席のデジタルコアの専門家も加わった討論会では、Web2.0について幅広く議論した。Web2.0を推進するパネリストからは「運用コストが安いので儲けを考えなくても面白いサービスが作れる」「自分たちが欲しいものを作ったら結果としてビジネスが成り立っていた」など、Web2.0関連ビジネスの本質に関わる発言が相次いだ。パネリストとビジネスモデルの研究者や法律家との間で、インターネットの進化の方向性や価値観について意見が食い違う場面も多く見られ、Web2.0の「多様性」が議論にも反映された形となった。

<主な議論は以下の通り>

──Web2.0でコミュニケーションは変わったか

会場:「一般的なホームページと比べて情報が発信しやすくなった。誰もが参加できるという広がりはインパクトがある」

猪子:「Web2.0になっても人のコミュニケーションは何も変わっていない。現実の世界の取りとめのない会話がネット上に繰り出してきただけだ」

小池:「普通の女学生が日常会話としてミクシィ上のやりとりの話をしている。ミクシィを見ていないと仲間はずれになったりするそうだ。昔、学校で『明星』『平凡』など流行の雑誌を読んでいないと話題についていけなくて必死で読んでいたことと何ら変わりない。まじめに分析するようなものではないのかもしれない」

会場:「これまでのインターネットの歴史からすればインパクトは小さい」

――Web2.0は儲かるのか

猪子:「Web2.0は儲かる。アマゾンやミクシィは本屋や糸電話の形を変えただけだが、アマゾンはどの本屋より儲かっているし、ミクシィも儲かっている。ただ、儲ける仕組みを考えられる人とそうでない人がいる。誰がやるかによっても違ってくる」

吉松:「広告モデルが中心になっており、多様化するのはこれからだ。化粧品の口コミ情報をマーケティング情報として化粧品会社に販売しているが、まったく儲からない。コンサルティングは月100万―200万円だから、いまはトラフィックを生かして広告を売る方が効率的だ」

関:「Web2.0はもともとビジネスモデルのための言葉ではないのに、いつもお金の話が出てくるからおかしいのではないか」

――Web2.0的なサービスは金儲けのために始めたわけではないのか

川崎:「会社である以上、儲けなくて良いわけはない。ただ、運用コストが非常に安いので、もともと手がけていた受託開発を止め、儲けを考えなくても面白いことができる会社になった」

津田:「フォートラベルは、旅行をサポートするサイトを作りたい、という動機が先だった。ソフトはオープンソースを使うし、いまは回線費用、サーバー費用も安い。昔は夢だったサービスだが、いまはかなりの低コストでできている」

吉松:「いまサービスを始めるのは数年前とはコストがぜんぜん違う。われわれが会社を立ち上げた2000年ごろはまだ回線費用ですら払えないほど高かった」

小池:「ミクシィも儲けようとして始めたわけではなかったが、いまはバナー広告も常に満稿だ。金儲けしようとせずに始めるといいことがある、という事例だ」

――ミクシィに集中しているコミュニティーは分散するのか

吉松:「分散するだろう。実際、ミクシィのなかに@コスメに関するコミュニティーがあり、活発に情報交換しているようだ」

川崎:「目的別に分散するだろう。日本のネットユーザー全員を対象にするつもりはない。ドミナントニッチを取りたい。小さなコミュニティーを多数作ることのコストが小さいのがロングテールの良さだ。ただ、サイト間でユーザーが行き来しやすいよう、互換性を持たせるべきだろう」

津田:「たとえば旅行に関する話題は、規模の大きなコミュニティーよりフォートラベルの方が詳しい。利用者は使い分けるのではないか」

猪子:「特定ジャンルで1つのサービスが独占する傾向にあるのは、夢を持っている人とそれを実現できる人のマッチングができていないからではないか」

――マッシュアップなどの形態でソフトウエアが無料で提供され始めた

会場:「マイクロソフトがネットをベースとしたソフトを作ることはいつでもできるだろう。しかし、それが無料となってしまうことが怖い。パッケージソフトのビジネスモデルは崩壊するかもしれない」

猪子:「コピーライトを基盤とする商売はすべて滅びるのではないか。グーグルは未来を信じてただ走っているだけ。技術者中心の会社なので、ビジネスモデルを考えないうちに欲しいシステムやサービスを作ってしまうから開発のスピードが早い。企業向けアプリについても作ってしまうのではないか。マイクロソフトはビジネスのことを考えすぎたから劣勢に立った」

会場:「グーグルが有料でソフトなどを提供し始める可能性もある」

吉松:「グーグルはそんなことをするはずない。有料サービスをやらなくても、広告の方が儲かるからだ。ミクシィが広告単価を下げて業界に影響を与えているのと同じで、無料サービスで市場が一気に崩壊してしまう分野も出てくるだろう」

――Web2.0のサービスはシニア世代への拡大も狙うのか

川崎:「自分たちの世代にとって一番いいものを作っている。シニア世代を取り込むのは相当努力が必要だろう」

会場:「Web2.0にはセキュリティーや信頼性の面で不安が残る」

猪子:「『2ちゃんねる』のようなものですら信頼性は高いと思っている。セキュリティーのしっかりした世界が必要な人は、Web2.0とは別に作ればいい。我々は今でも十分幸せだから(邪魔しないでほしい)」

――一時的なはやり言葉でもWeb2.0のような言葉はあったほうがいいのか

小池:「ドットコムバブル以降、シリコンバレーはとても元気がなかった。Web2.0という言葉で再びお金が動くようになった。ビジネスに『バズワード』は必要だ」

吉松:「@コスメはそれまで匿名掲示板と同様に『よくわからない存在』として見られていたが、Web2.0という言葉で急に注目を浴びるきっかけになった」

川崎:「はてながやっていることには何も影響はないし、ビジネスモデルは変わらない」

[2006年11月21日/IT PLUS]