もっとクールに仕事をするための使える「ゲーム理論」<第4回> 「循環多数決」を使って自分の主張を通す

2006年9月26日 火曜日 日経ビジネス アソシエ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20060907/109428/?ST=nboprint

 参加者の意見が対立して結論に到達しそうにない会議。これを打開するためにゲーム理論を活用してみよう。例に挙げたのは「循環多数決」という状況だ。3者のプレーヤーが最善と考える選択肢がきれいに分かれてしまっている場合は、議論の順番にちょっとした工夫をしてやるだけでいい。

Q.会議の結論を自分に有利にする議題の順番ってある?
アソシエ自動車では、来年度の予算策定を巡り熱い議論が交わされていた。会議に参加したのは開発部門と営業部門、管理部門のそれぞれの代表3人。それぞれの主張と優先順位は下記のように食い違っている。自分たちの主張を通すためにどのような議論の流れを作ればいいのだろうか。

【各部署の主張】
営業部門

販売を拡大していくために広告宣伝を増やして認知度を上げるべきだ。
(どうしてもダメならば開発にお金をかける方がいい)

管理部門

来年度は新製品が少ないのでコストを下げないと今年の営業利益を上回るのは厳しい。
(どうしてもダメならば広告宣伝にお金をかける方がいい)

開発部門

新製品が少ない今こそ将来に向けて開発費を増やすべきだ。
(どうしてもダメなら今年は経費を使わずに再来年度の予算に回したい)

【まとめ:各部門の優先順位】

管理部門:コストダウン>宣伝費>開発費
営業部門:宣伝費>開発費>コストダウン
開発部門:開発費>コストダウン>宣伝費

 参加者の意見が対立して結論に到達しそうにない会議。これを打開するためにゲーム理論を活用してみよう。例に挙げたのは「循環多数決」という状況だ。3者のプレーヤーが最善と考える選択肢がきれいに分かれてしまっている場合は、議論の順番にちょっとした工夫をしてやるだけでいい。

妥協案がポイント

 管理部門と営業部門と開発部門の3者は一見全く相容れない主張をしているように思える。だが、最善の策が通らなかった場合の次善の妥協案に関して言えば、他部門が受け入れる内容になっている。ここで3つの部門がそれぞれ他部門の次善の妥協案をよく知っていると仮定しよう。

 例えば、管理部門が「経費を使うなら開発費と宣伝費のどちらかを多数決で決めて、その後経費を使うかどうかを多数決で決めてみるのはどうか」と提案する。開発部門と営業部門が首を縦に振ってしまえば管理部門の思うツボだ。

【管理部門の必勝パターン】

[第1段階]
宣伝費か?開発費か?

管理 宣伝費>開発費
営業 宣伝費>開発費
開発 開発費>宣伝費

→宣伝費に決まる

[第2段階]
宣伝費か?コストダウンか?

管理 コストダウン>宣伝費
営業 宣伝費>コストダウン
開発 コストダウン>宣伝費

→コストダウンに決まる

 この順序で議論を進めれば、営業部門は宣伝費を主張し、開発部門は開発費を主張する。そこで管理部門が次善の妥協案である宣伝費の支持に回ることで多数決が成立する。次に宣伝費を「使う」か「使わない」かで決を取れば、再来年度の経費増額を目論む開発部門がコストダウン支持に回るので、経費は使わないという意見が多勢を占めてしまう。これで管理部門は自分たちが最善と考える意見を通すことができる。

 営業部門が自身の意見を通したいと思うのであれば、先に経費を増やすかコストカットかを決議し、その後宣伝費と開発費を決するという順番が最適となる。

【営業部門の必勝パターン】

[第1段階]
コストダウンか?カネをかけるか?

管理 コストダウン>カネをかける
営業 カネをかける>コストダウン
開発 カネをかける>コストダウン

→カネをかけるに決まる

[第2段階]
宣伝費か?開発費か?

管理 宣伝費>開発費
営業 宣伝費>開発費
開発 開発費>宣伝費

→宣伝費に決まる

 もちろん、現実の議論では、ここまで簡単に議論の順番次第で自分に有利な結果を得られるケースは少ない。だが、循環多数決のモデルは重要なことを教えてくれる。意見が対立している場合には、他者の置かれた立場を深く分析し、妥協案として他者が受け入れられるギリギリの線を正確に把握することが、議論を有利に進める材料になるということだ。敵を知ることが勝利の条件になる。