ミクシィ襲う1億人の黒船

トヨタ販社も参入、SNSは百花繚乱の乱戦

2006年9月26日火曜日 井上 理
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20060922/110393/?ST=nboprint

 9月14日の上場初日、買い注文殺到で値がつかない人気ぶりを見せた新興市場期待の新星「ミクシィ」。結局、公募価格の倍近い値をつけ3連休を迎えた。その最後の祝日…。

 約1億1000万人の会員数を誇る世界最大のコミュニティーサイト「マイスペース」。主に英語圏を中心に急成長している巨大サイトのトップ画面が、突如日本語になったのだ。

 大きく「MySpace Japan BETA」と書かれたその画面は数時間後、元の英語版に戻った。テストをしている最中に、誤って日本からのアクセスのみ開発中の画面を出してしまったのか。モンスターの日本上陸は迫っている。
米最大手が上陸へ

 ミクシィ上場をメディアは華々しく伝え、「SNS」という言葉が突然世に溢れ出した。日記やサークル活動を通じ、ウェブ上で友達と交流したり輪を広げるソーシャル・ネットワーキング・サービスの略だ。

 2004年2月にサービスを開始したミクシィは、若者の口コミで利用者を急速に増やした。わずか2年半で上場にこぎ着けた時には570万人。日本最大のSNSとして市場からの期待を一手に集め、15日時点で時価総額は2199億円と、いきなり東証マザーズで2位となる超人気銘柄に躍り出る。

 確かに、ユーザーを巻き込みながらともにサイトを育んでいるミクシィの成長は、すさまじい。500万人という「数の力」を得たSNS事業は昨年、広告売り上げを前年比46倍に伸ばした。

 だが、それでもミクシィの売上高は18億9300万円で、「時価総額に見合わない」「ライブドアなき後の期待を背負っただけ」という声も聞こえる。

 それ以上にミクシィにとって憂鬱なのは黒船の来襲だろう。

 SNS世界最大手のマイスペースで海外戦略を担当するトラヴィス・カッツ副社長は、ミクシィ上場の4日前、本誌の取材にこう答えた。

 「今後12カ月以内に日本版を正式に開始する。数は明かせないが既に英語版には相当数の日本のユーザーがおり、毎月15〜20%の割合で増え続けている。ミクシィはよく知っているが、ユーザーを奪おうなどと(小さいこと)は考えていない。米国では後発だったが(SNS米最大手だった)フレンドスターを抜き去った経験が我々にはある」

 市場調査はあらかた済ませ、現在は冒頭のようにテストを繰り返す日々。年内にもベータ版(試験版)を始める公算が大きい。黒船はほかにもいる。

 日本でもニフティなどが採用するブログ(日記風の個人サイト)構築ツールの最大手、米シックス・アパートは8月、ブログ中心のSNS「Vox」を日米で開始した。同社は自社のブログサービスなどで世界に1500万人の潜在顧客を抱えており不気味な存在だ。

 友人からの紹介がないとSNSを利用できないミクシィに対し、マイスペースやVoxは誰でも利用できるため、急速に利用者を伸ばす可能性がある。
老舗企業に加え異業種も参戦

 足元の国内も今年に入ってSNSを開始する企業が急増。楽天やヤフーといった老舗ネット企業に加え、異業種も参入する乱戦模様だ。

 都内のトヨタ自動車系列販社5社を傘下に持つ国内最大の販社、トヨタアドミニスタは7月、東京を中心とした地域SNS「MyToyota.jp SNS」を開始した。現在は顧客に限らず広く会員を募集。「街の情報」でにぎわうサイトを作るとしている。三井物産三菱商事が出資するAnyも8月、「マイスペースのようなオープンで総合力のあるサイトを目指す」(畑野仁一社長)としてSNSを始めた。

 ミクシィの第2位株主は、自身も8月に上場を果たした西川潔社長率いるネットエイジグループ。西川氏はかつて東京・渋谷を中心にネットベンチャーブームを巻き起こした「ビットバレー」生みの親でもある。西川社長は当時からミクシィ笠原健治社長を支援してきた。時を経てビットバレー軍団が再び頭角を現しつつある。今度は本物になれるのか。まずは巨象の上陸で真価が問われる。
[日経BPNBonline]