プロジェクトの成功と失敗を分けるもの

2006年9月25日 月曜日 井上 健太郎
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20060920/110184/?ST=nboprint

 「数年前、あるシステムの見積もりを見て『なんでこんなに高いの? なんで? なんで?』とベンダーに繰り返し聞いていったら、びっくりするほど最初より安くなってしまった。それまではこんなことをベンダーに尋ねたらバカにされるのかな、という気持ちがあったが、それを機に考えが変わった。システム導入プロジェクトは、目的を明確にし、段取りを重視して、不透明な点はどんどん早い段階で潰していくことが大事だ」

 こう語るのは、京都府の猿渡知之副知事。山田啓二知事の片腕として、業務コスト削減プロジェクトの実質リーダーであり、実質的なCIO(最高情報責任者)でもある。同氏は2003年から京都府庁に赴任したが、冒頭のコメントは総務省時代の体験談である。

 猿渡副知事のIT(情報技術)導入へのこだわりは、民間企業に優るとも劣らない。それもそのはず。京都府は例年、収支不足額が500億円規模に達し、財政再建団体転落の危機すらささやかれる状況だ。万が一、ITを導入しても業務コストが下がらないといった失態を演じれば、府議会からの猛批判を浴び、石もて追われかねない。

目的意識の食い違いをなくす

 冒頭のコメントに表れているように、猿渡副知事は、IT導入コストは、プロジェクト管理の進め方一つで大きく変わるものだと考えている。プロジェクトの進め方も、民間の人に相談しながら様々な工夫を取り入れた。

 例えば、「何を目的に活動するのか、初期に関係者の意思統一を図らないとプロジェクトは迷走する」というアドバイスを受けた。そこでIT導入プロジェクトの発足時は必ず「ODSCシート」という書式でプロジェクトの「目的」「成果物」「成功基準」を明確に設定することにしている。

 一例を挙げると、目的ではIT導入ではなくあくまで「効率的な意思決定プロセスの確立」といった業務改革を掲げる。成果物は「電子決裁システム・文書事務支援システム」。成功基準は「電子決裁率50%以上」「決裁件数、押印数、所要日数の半減」など定量的に明記する。

仕様の合意形成にリーダーシップを発揮

 また、システム仕様を現場担当者レベルで検討すると、どうしても利用部門の声が優先され過ぎて仕様が複雑になりがちだ。そこで会議のやり方を工夫した。設計仕様を決める検討会はすべて副知事室で行うことにした。

 猿渡副知事は、データの二重入力や例外処理などがシステムに盛り込まれているのを見つけ次第、その場で利用部門に連絡を取って業務の見直しを命じたり合意を取り付けて仕様を固める。「こうすることで後で仕様を見直したりすることもなくなりIT導入の総コストが安く済む」。2008年度に稼働予定の税務電算システムは、ほかの都道府県の半分のコストで導入できる見込みだ。

 ここではたまたまIT導入プロジェクトの例を紹介したが、もちろんプロジェクトはどの企業にもある。自動車メーカー、電機メーカー、サービス業などにもそれぞれ商品開発、業務改革プロジェクトがある。

 定められた期日に目標を達成するため、細心の注意で段取りを守り、リスクに対処するプロジェクトリーダーは、まさにスピード経営の主戦力だ。そこで日経情報ストラテジー12月号では、「プロジェクトマネジメント」をテーマにした業種横断的な事例特集を予定している。様々なリーダーの人物像やマネジメントの工夫をお読みいただくことで、読者の属するチームの組織力や自身のスキルを強化する契機にしていただければと思う。