企業Webサイト制作現場の“非常識” 第23回 企業サイトを変えるWeb2.0とAjax…その意外な実態

http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/column/web_gemba/061206_23th/

新しい技術・手法が生みだす手間という負荷

ごく当然かもしれないが、技術は日進月歩である。Webサイトにかかわるものだけに限ってみても、ここ数年で大きく進化し、Flashなどのムービー系や、インタラクティブな要素が豊富な、いわゆるリッチ・コンテンツが中心となり、静止画とテキストのみだった過去のサイトは、すでに色あせてしまったといっても過言ではない。

それぞれの技術的な特質を挙げることは、本稿の目的ではないし、詳しい解説を載せたサイトも数多いので、そちらをご覧いただくとして、こうした技術の進歩を制作現場が大歓迎だったかどうかは、少しだけ疑問が残る。おそらく「だんだん派手になったけど、手間もかかるようになったね」というのが正直な感想だろう。

どの技術が制作現場の負荷を重くしているかは、そう一概に結論づけられない。静止画とテキストだけのサイトに比べれば、「マウスでカーソルをボタンに移動すると背景色が変わる」という手法ひとつでもプログラムの記述量は格段に増えるので、「すべての新しい技術が手間を増やす要素になっている」というのが“正解”に近い。

だからといって、制作現場が最新の技術や手法に消極的なわけではない。むしろ、海外のサイトなどで紹介された新しい技術や手法を積極的に取り込み、実際のサイトに応用しようとしている制作現場が、過半数だと思う。もちろん、それが制作費に反映されることは、Flashなどのムービー系を除けば、 90%以上の確率でありえない。

それでも、最新の技術や手法に積極的になってしまうのは、制作現場の本能とでもいうしかない。そして、それをサイトに応用しようとすると、複雑な事情がつきまとうことになる。

どうしても「目に見える」にこだわる理由

考えてみれば、リッチ・コンテンツの導入そのものが、あいまいに始まる印象が強い。我が現場だけに限っていえば、制作現場の提案から検討が開始される場合が多い気がするが、同業者のなかには「発注側から」が半分以上という例もあり、どちらからと断定しにくいのが、あいまいに始まる印象が強い理由のひとつだろう。

確かに、なかにはほとんどが発注側の指示というものもある。おそらく、ご想像のことと思うが、Flashなどのムービー系は、具体的にFlashを指定することは少ないにせよ、発注側の依頼によることが多い。その意味では、リッチ・コンテンツの老舗(?)であり、残念ながら「とにかくFlashを使えば」という風潮があることは事実である。

もちろん、Flashに視線が向かう事情はある。技術的な信頼性や安定した作成ソフトの普及という要素も大きいが、なによりも「目に見える」という点は無視できない。だからというわけかどうかは微妙にせよ、「請求しやすい」という事情も否定できない。同じ画像移動ならスタイルシートJavascriptを使うよりも、Flashを使う方が、簡単に作成できるし、付加料金も請求しやすいという事実は厳然として存在する。

実をいえば「目に見える」という要素が厄介であり、リッチ・コンテンツの導入のあいまいさにつながっている。画像が動く、背景色が変わる、文字が移動する……「目に見える」からこそリッチ・コンテンツも実感できるし、仮に付加料金が発生しても、社内稟議(りんぎ)も通りやすい事情は理解できなくもない。ところが、「目に見えない」部分の最新の技術や手法も多く、それが「目に見える」リッチ・コンテンツの前提となる場合もある。

たとえば、スタイルシート文字コードなど、飛躍的に進化しつつある分野が、移動できる地図や色彩の変化などの前提となる例は少なくない。だからといって、スタイルシート文字コードの改善は、「目に見えない」ということもあって、付加料金として認められることはないだろう。

とはいえ、サイトの将来的な対応を考えると、スタイルシート文字コードなどは無視できない。結局のところ「この際、スタイルシートの変更も」と、あいまいなまま着手することになる。もちろん請求につながることなど、絶対にない。

企業サイトとWeb2.0Ajaxの難しい関係

さらに状況を複雑にしそうなのが、Web2.0Ajaxである。制作現場が長くなると、どうしても視野が狭くなりがちで、Web2.0Ajax が一般的に注目されているかどうかは疑問が残る。だが、さまざまな紹介サイトや記事も多いことから類推すれば、それなりに評価されていると考えても間違いとは言えないようだ。

簡単に紹介すれば、「Web 2.0とは、従来のWWWにおけるサービスやユーザ体験を超えて次第に台頭しつつある新しいウェブのあり方に関する総称」(『IT用語辞典バイナリ』より)で、「いくつかの共通要素を共有しており、これらの要素を持っているかどうかによってWeb 2.0は特徴付けられ」(同上)、「ユーザーの手による情報の自由な整理、リッチなユーザー体験 、ユーザ参加」(同上)などが特徴として挙げらている。

一方、「AjaxはAsynchronous (エイシンクロナス/アシンクロナス、非同期) Javascript + XML の略」(フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』より)で、「通信結果に応じてDHTML(Dynamic HTML)で動的にページの一部を書き換えるというアプローチを取り」(同上)、「画面遷移を伴わない動的なWebアプリケーションの製作が実現可能になる」(同上)とある。

具体的には、グーグルのサービスである「Googleマップ」や「Gmail」などを想像していただきたい。我々がAjaxの応用を提案した代表例としては、従来の静止画像の「案内図」に代わって、「Googleマップ」により駅からの経路を、地図と航空写真で動的に体験できる「案内図」がある。また、小中学生向けのコンテンツとして、設問の文字を回答箱にドラッグ&ドロップすることで回答内容が表示されるものも作成した(注)。

ところが、発注側からは賛否両論なのである。「案内図」では、「イラストの地図の方がキレイ」「たどるのが面倒」とか、ドラッグ&ドロップ型コンテンツの場合などは、「クリックしないのは違和感がある」という反対意見さえあった。予想はしていたものの、守旧的な声に押されて公開には至っていない。

注:
動的に体験できる「案内図」やドラッグ&ドロップ型コンテンツは、Ajaxのライブラリに近いものが多数あり、Javascriptを書き換えれば動作します。関心のある同業者の皆さんは、ぜひお試しのうえ応用してください。

「目に見える」から「使いやすさ」へ

公開の許可が出ないから言うわけではないが、最新の技術や手法の実装は難しい。考えてみると、画像が動く、背景色が変わる、文字が移動する……こうした「目に見える」コンテンツならば理解されやすい。だが、それに「ユーザー参加」「ユーザーによる整理」など、ユーザー自らが操作する要素が入ることには、抵抗があるのかもしれない。

確かに、動的に体験できる「案内図」やドラッグ&ドロップ型コンテンツという発想の貧困さも問題だったのかもしれない。しかし、新しい技術や手法の応用は可能性を秘めている。いまのところリッチ・コンテンツは、「目に見える」という部分に比重を置く傾向にあり、なおかつ「目に見える」派手さに依拠しているが、Web2.0Ajaxは、それだけでなく「使い勝手」という要素も大きい。

事実、申し込み入力画面などで、年月日や都道府県を、長いプルダウンメニューから選んで指定していたのに対し、カレンダーや地図からワンタッチで入力する手法は実用化されている。また、数多くのコンテンツを、ユーザーの興味のある順に並べる画面も提供されている。

ただ、さまざまな可能性を広げるには、どうしても制作現場だけの力では限界がある。やはり、発注側からも「もっと使いやすく」「もっとわかりやすく」という要求があってこそ、制作現場も情報を提供し、工夫を重ねることができるのではないだろうか。

そのためにも、「目に見える」要素だけに目を奪われないでいただきたい。ユーザーが使う対象としてサイトを考え、「使いやすさ」「(コンテンツへの)到達しやすさ」を追求することが、もっと必要な気がしてならない。

企業Webサイトが情報発信のための「見せる」ものから、目的に合わせて使ってもらうツールへと脱皮していく第一歩は、ここからはじまるのではないだろうか。

帰ってきた顰蹙の魔王
今は考古学の対象となったパソコン通信の時代。筒井康隆朝日新聞連載小説『朝のガスパール』(1991年10月〜1992年3月 朝日新聞社刊)と、その同時進行ライブ電脳筒井線朝日新聞社刊)に登場。Web制作の現場に密かに生息中。その毒舌が再びよみがえる。