Web2.0(笑)の広告学 ゲームの世界に似合う広告って?

2006年11月28日 須田 伸
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20061122/114257/

 皆さんはゲームをしますか?

 ソニー・コンピュータエンタテインメントプレイステーション3PS3)が日本とアメリカで発売と同時に品切れ状態になり、任天堂Wiiアメリカでは既に発売がスタートし日本でも12月2日に発売開始ということで、ゲームが今年のクリスマス商戦から来年前半にかけての大きな話題になっていきそうです。

 私自身はニンテンドーDSでたまに「脳トレ」や「マリオ」をプレイする程度の超ライトゲーマーなのですが、広告メディアとしても注目を集めつつあるゲームを今回は取り上げてみたいと思います。

ゲーム広告の市場規模

 ゲーム広告とは、ゲームの中の街のビルボードに広告が表示されるような「ゲーム内広告」と、商品自体がゲームの主役になる「アドバゲーム」の2つに大別されることが多いです。

 日本ではまだまだいずれのタイプのゲーム広告市場も小さいのですが、日本よりも進んでいるといわれるアメリカのゲーム広告市場は、2005年の実績で約200億円(eMarketer調べ)程度あるとされています。さらに今後は、市場規模、ユーザー数ともに年間で150%程度の成長が見込まれており、2009年には900億円規模の市場になると予測されています。

 とりわけ、今はアドバゲームより市場が小さいゲーム内広告が今後は大きく成長し、2009年の900億円のうちの約600億を占めると予測されています。

ゲーム内広告の訴求力

 ゲームの特徴として、ユーザーにかなりの集中力を要求するということがあります。今日の消費者は、テレビを見ながら、雑誌を読み、さらにケータイのメールをチェックしたりといったように、さまざまなことを同時にこなす「マルチタスク」が上手になっています。

 ところがゲームの場合、何か他のことをしながら同時に楽しむというのが難しい。

 もちろんゲームの種類にもよりますので100%というわけではありませんが、格闘ゲームのような類のものに限らず、たいていのゲームにおいてユーザーは、「シングルタスク」であることを要求されます。

 ですから、そこに表示される広告も注目してもらえる確率が高いという説があります。もちろん一方で、プレイヤーは自分がコントロールしているキャラクターの動きや敵の反応に意識の大半を向けているため、それ以外の場所の広告にはたいして目が向かないという説もあります。

 ゲーム内広告の効果検証のデータはまだ十分に出揃っているとは言いがたい状況ですから、結論めいたことは言えませんが、ゲームというエンターテインメントはプレイヤーの意識をその瞬間、集中的に浴びるわけで、そこで効果的な訴求方法が発見されれば面白いことになると広告関係者も注目しているわけです。サイバーエージェントでもアドプレインというゲーム内広告専門会社を今年の9月に設立しています。

絆を深めるオンラインゲーム

 インターネットでつながった複数のユーザーが同時にゲームを体験する、これが「オンラインゲーム」の大きな特徴です。既に多くのユーザーがオンラインゲームを楽しんでいますが、今後はより多くのゲームがこのオンライン機能を持つことで、お互い実生活では会ったことのない者同士が対決したり、時には協力し合ったりするようになります。

 アメリカのオンラインゲーム事業者から聞いた話ですが、モンスターを協力し合って倒した男女がその後、実生活でも会うようになり、やがて結婚することになったというケースがけっこうあるそうです。ホントかよ? と思う反面で、苦難をともに乗り越えるという共通体験ができる場が実社会よりも今後はオンラインゲームの中で増えていくというのは、十分あり得るかもな、とも思いました。

 また企業としては消費者に「結婚してくれ」とまでは言わないまでも、より「深い絆」をつくるうえでゲームが無視できない存在になってきているのです。

セカンドライフというヒント

 まだ日本からのプレイヤーの数はさほどでもないのですが、日本語版のリリースも決まっていて、メディアに取り上げられる機会が多いのが「Second Lifeセカンドライフ)」です。

 登録ユーザー数は全世界で100万を超え、通信社のロイターが「支局」を開設して、セカンドライフという仮想空間のニュースを取材して報道するという試みを始めたり、IBMDELLといった企業も「支社」や「拠点」を置くなど、活発な進出が目につきます。

 セカンドライフを「オンラインゲームの一種である」とする人と、「あれはゲームではない。仮想世界である」と言う人がいますが、ここではその定義論争には参加しないことにします。「そもそもゲームとは何か?」さらには「ライフ、人生とは何か?」と議論があらぬ方向に発展しそうなので・・・。

 セカンドライフに関して注目すべきは、そこにはサービス提供者が敷いたゴールに向かって延びるレールが存在しない、ということです。「キャラクター」「通貨」「土地」などの基本インフラを提供して「あとはご自由にどうぞ」という形式が、今後の他の「オンラインゲーム」に与えるインパクトは少なからずあるでしょう。

 ステージをクリアして「終わりまで行く」という発想を捨ててみると、オンラインゲームの可能性がまたぐんと広がると思うのです。

オンラインゲームは必然的にコミュニティ化する

 昔からよく聞く話に、地域の病院の待合室がお年寄りのコミュニティ化していて「今日は杉田さんがいないね」「うん、なんか体調崩しているらしいよ」という会話がありますが、オンラインゲームも人と人が集うことが楽しみの大きな要素になると、必然的にやがてコミュニティとして発展していくことになります。

 病院の待合室のようにゲームのプレイ自体が副次的になり、いつものメンバーとおしゃべりしたり、それに飽きたらゲームという共同作業をしたりといったように変化していくかもしれません。

 そこで広告はどうなるか? もちろん人が集うコミュニティという場所に商品の広告がある、という「プレースメント型の広告」も有効な手段になり得ると思います。

 一方でコミュニティの参加者が茶飲み話の合間に消費する「アイテム」として企業の商品が登場することも考えられるでしょう。または茶飲み話の延長で、ゲーム参加者に広告をつくってもらう「ゲーマー制作広告」などもあるかもしれません。

最近見た、一番のゲーム広告

 とはいえ現時点で、ゲームを使った広告の例で、これはうまいなと感心したのは、そんな複雑な仕掛けのものではありません。コカ・コーラの事例です。しかも実際のゲームの中に広告を出稿したのではなく、あるゲームの世界観を借りてきてつくった映像作品です。

 そのゲームは「グランド・セフト・オート」。世界中で5000万本以上の累計売上を記録する人気ゲームであると同時に、そのゲーム内の暴力的描写が各国で問題になるというネガティブイメージでも有名なゲームです。

 コカ・コーラの作品は、この暴力的なグランド・セフト・オートの世界もコカ・コーラがあれば、みんなが助け合い人生の素晴らしさを実感できる素敵な世界に生まれ変わるということを表現しています。

 グーグルビデオに上がっている映像をご覧ください。

 「ゲーム内広告」ではなく、むしろ、「ゲーム連想広告」なのですが、ターゲットである若者のハートにリーチして話題になる表現という意味では、よくできた「ゲーム広告」だと思います。

 ゲームと広告、この両者のユニークなコラボレーションは、これからいくつも出てくるに違いありません。