もっとクールに仕事をするための使える「ゲーム理論」<第2回> 「利得行列」を使って、より良い決断をする

2006年9月12日 日経ビジネス アソシエ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20060824/108569/?ST=nboprint

 ゲーム理論を理解するうえで必ず押さえておかなければならないのが「利得行列」と呼ばれる分析モデルだ。

 経済活動の目的は利益の追求にある。お互いに利益を追求し合うプレーヤー同士が競争をしたり、協力をすることによって最終的な利益がどのようになるのかを考えるツールとして、この利得行列が力を発揮する。

 以下の例題を基に利得行列を作ってみよう。

Q.ライバルも出店を考える中、どちらに出店すればいい?

T社とS社の2つのコンビニチェーンがA駅、B駅のどちらかの駅前への出店を計画している。A駅前に出店すれば1日に700人、B駅前だと300人の来客が見込めるという。互いに別々の駅前に出店すればそこで見込める客は総取りできるが、同じ駅前に出店してしまった場合は想定顧客を半分ずつに分けてしまうとする。あなたはT社の出店責任者だとすれば、A駅とB駅のどちらの駅前に出店するだろうか。

 縦軸をT社、横軸をS社として、両社が取る選択「A駅前に出店」「B駅前に出店」を配置する。そして両社の選択の交点にそれぞれが獲得できる顧客数を記入すれば、利得行列の完成である。

S社がどちらに出店しても、A駅前がベストの選択

 この利得行列からB駅前に単独で出店した場合より、競合を覚悟したうえでA駅前に出店した方が利得が高いことが分かる。つまり、両社とも相手の選択にかかわらず、A駅前に出店する方が有利である。このように各プレーヤーが最良の結果を得て、他のプレーヤーが選択を変えない限り、自らも選択を変えなくてもいい均衡状態を「ナッシュ均衡」と言う。

条件を変えて考えてみる

 ただし、最良の結果は常に1つとは限らない。先ほどの設問と条件を変えて、A駅前に出店した際に獲得できる顧客数を600人、B駅前で400人だったらどうだろう?

Q.A駅600人、B駅400人ではどうなるか?
早くA駅に出店した方が600人を獲得できる

 双方が別々の駅前に出店するのが最良の結果となる。両社がともにA駅前に出店して客を分け合った場合、1店当たり300人の客しか獲得できないからだ。それならB駅前に出店して、400人の客を独占する方がマシである。自社が600人の利得を獲得するためには、他社より早くA駅に出店することが条件となる。

次世代DVD、両陣営の決断は?

 利得行列は、ライバル関係のプレーヤーだけでなく、お互いに譲歩して合意や提携をするのが最良の選択となるケースの分析にも使える。ただし、この場合も利得の大小によっては双方譲歩が最良の選択にならない場合もある。現実の世界で規格統一が困難なのは、相互譲歩のもたらすコストが巨大(利得が小さくなる)ゆえとも言えるだろう。

 DVDに続く新しい記録媒体として注目される「ブルーレイディスク(BD)」と「ハードディスクDVD(HD)」。双方は互換性がない別の規格であり、消費者はどちらかを選択せざるを得ない状況にある。果たして、2陣営が取るべき最良の選択は何なのだろうか。

次世代DVD,最良の選択

 双方が譲歩しなければ消費者は混乱してしまい、市場自体が小さくなるので利得は双方とも低くなる(3・3)。ブルーレイ陣営が譲歩すると、ブルーレイ陣営はそれまでの開発コストを回収できないままHD陣営の規格の製品を開発し直さなければならず、HD陣営はそのまま製品を販売できるので(2・8)となり、逆にHD陣営だけが譲歩すれば(8・2)となる。

 双方が譲歩して“中間的な規格”に統一すれば消費者は混乱せず、市場が盛り上がるので利得は(6・6)となる。双方が協力することが一番好ましい。