すぐそこにある危機 第7回 里山の森が大ピンチ ドングリの大木が病原菌を運ぶ虫の温床に

文/藤田 香(日経エコロジー編集委員)7月21日公開
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/z/07/
 里山を彩る季節はずれの紅葉か、と思いきや、赤茶色の木は枯れ死したドングリの木。ミズナラ・コナラなどのナラ類やアラカシなどのカシ類が全国で次々と枯れている。被害は1990年ごろに始まって鹿児島から山形までの18府県に広がり、2004年度には1114haに及んだ。新潟県では11万本が枯れ、京都府では清水寺の裏に広がる国有林でも約80本が被害を受けた。
 犯人はカシノナガキクイムシという昆虫だ。ナラ菌という病原菌を媒介するこの虫は、木に約1mmの穴を開けながら数百の卵を産み付ける。ふ化した幼虫も穴を掘りながらナラ菌を広げる。菌に侵された木は通水機能を失い、水の必要な8〜9月に枯れてしまう。
 「1930年代以降、枯れ死は時々あったが、突発的ですぐに収まった。今回は被害が拡大し続けている」と、森林総合研究所関西支所の衣浦晴生氏は言う。理由は大径木化だという。「戦後、炭焼きが廃れて里山が放置され、ナラ・カシ類が太くなりすぎた。こうした大木に入った虫が異常繁殖した」
 東北地方では広葉樹の森の約3割をナラ・カシ・クヌギ類が占める。枯れ死が続けば森が破壊され、ドングリを餌にするクマなどの動物への影響や土砂崩れなどが心配される。赤茶に染まる森は、人と森との断絶を訴えているかのようだ。