インターネット上で急速に注目されるショートコンテンツ

森祐治 2006/04/21 08:00
http://japan.cnet.com/column/mori/story/0,2000055916,20102175,00.htm?ref=rss
 米国で、インターネットを利用してリッチコンテンツを楽しめる環境が整備されつつある。そこでは、映画をはじめとしたハイエンドな視聴体験を提供する本格的なプロフェッショナルコンテンツよりも、アマチュアが制作する映像(CGC:コンシューマー生成コンテンツ)などのショートコンテンツに注目が集まる傾向が強い。

米国で広がるネット映像視聴

 4月24日から27日までラスベガスで全米放送協会のイベント「NAB2006」が開催される。依然として全米放送協会の略称「NAB」を冠しているものの、実質的にはエレクトロニクスメディア全般のトレードショウとみなされるようになって久しい。今年も放送業界は当然のこと、急速にリビングルームに近づくIT業界やハリウッドなどのコンテンツ業界の面々が集うイベントになるだろう。
 NAB2006のサイトを見るとわかるが、今年のホットトピックスは「IPTV」と「MoTV(Mobile TV)」になるはずだ。すなわち、ブロードバンドを用いた映像配信サービスと、モバイル網を用いた映像配信サービスであり、共にインターネット技術が前提となっている。
 前回も書いたように、米国でのブロードバンドは日本と比べてかなり「遅い」。それでも、ブロードバンド利用は全米の37%の世帯にのぼり、インターネット経由での映像視聴は一般化しつつある。
 米オンライン出版社協会(OPA)の調査によれば、インターネットで映像を視聴している人のうち5%が恒常的に視聴をしており、4分の1は1週間に1度以上視聴する習慣を持っているという。
 人気があるのは、ニュース、おもしろ短編映像、音楽クリップ、映画の予告編、気象情報と続く。全般的に短い映像ばかりだ。昨今人気のAddictingClips.comやYouTubeといった映像投稿サイトやMySpaceの中の映像コーナーなどに集まるCGCが、企業が提供するニュースや音楽クリップなどのプロフェッショナルコンテンツと並んでで健闘しており、それらを用いたプロモーション手法の開発が盛んになっている。

短編映像視聴は携帯電話でも広がるか

 一方、携帯電話サービス「後進国」という地位に長らく甘んじてきた米国でも、この夏頃からネット接続サービスが本格化される。
 これまでは、米国の携帯電話事情は日本と大きく異なっていた。EV-DOやGPRS といったパケット通信方式を組み込んだ、Windows MobileなどをベースにしたPDA型の携帯電話端末(「スマートフォン」と呼ばれることが多い)でネット接続するしかなかった。
 しかし、今後、スマートフォン以外の端末でもiモード的なサービスの利用が可能になっていくという。例えば、携帯電話会社は競って音楽ダウンロードサービスを開始しており、それらを利用できる端末は必ずしもスマートフォンに限定されていない。業界2位のVerizonは自社開発のサービス、vCast Musicを本年1月から開始し、首位のCingularはAppleiTunesに対応した携帯電話端末を販売しているが、それらはいずれもスマートフォンではない。
 音楽だけではなく、映像配信も始まる。VerizonはQualcomと共にMediaFLOサービスを準備している。今年後半に開始予定の MediaFLOは、携帯端末向けの映像配信サービスである。MediaFLOは、同時に映像を多数の利用者に配信する放送型のサービスに加えて、ポッドキャストライクなClipCastという蓄積型映像配信サービスも用意しているというが、利用できるのはスマートフォン型端末とは異なる通常端末に近い仕様になるはずだ。
 加えて、各種アプリケーション/サービスをIPで統合するIMS(IPマルチメディアサブシステム)に対応した映像配信サービスも開始される予定だ。
 いずれにしても、これらのリッチコンテンツ(音楽や映像)は、短編といわれる類の長さになるに違いない。というのも、音楽配信サービスも MediaFLOも、そしてIMSで提供されるサービスのいずれも、日本のiモードの成功からの学習か、「暇つぶしメディア」を目指しているからだ。

素人ショートコンテンツへの注目高まる

 正直言って、現在の米国でのCGC短編映像などのショートコンテンツに注目が集まっているのは、米国型の「ブロードバンド」では、長時間の視聴に耐えうるリッチコンテンツをストリーミング視聴したり、ダウンロードしたりするのが依然として困難という環境要因が大きい。
 加えて、オンライン上で無料で流通するプロフェッショナルコンテンツは、音楽を除き、それ自体が商品として流通されておらず、プロモーションとして位置づけられたものばかりだ。そのため、わざわざ眺めようと思わないものも多い。
 また、数年前から「サバイバー」などに代表される「リアリティショウ(素人が登場するテレビ番組)」ブームに見られるように、視聴者がすばらしい品質を持ったプロフェッショナルコンテンツ以外のものにも目を向けるようになっていったということも背景にあるかもしれない。
 とはいえ、素人作品といえどもは侮れない品質のものも多いという発見もあったろう。市井のクリエータたちの中には、なかなかの腕前を持つ人もいるからだ。あるいは、ショートフィルムを大学の卒業制作やコースのレポートとしてとして作ったものを「せっかくだから」といって公開したケースも多く、ときにそれらが見初められてメジャーデビューへとつながるシンデレラストーリーも出てきている。
 そんなシンデレラストーリーの日本版を目指し、アニメ領域で新しい才能を見つける「動画革命東京」を株式会社シンクは開始した。今後、制作支援対象が決定した作品やその制作状況を随時サイト上で公開していく予定だ。
 今後、ブロードバンドがより広帯域になっても、携帯電話で映像がサクサク見られるようになっても、多種多様な表現やストーリーが埋蔵されているショートコンテンツの人気はしばらく衰えないに違いない。
[from CNET News.com]