Web2.0的キーマンに聞く 「B2Cサイトとしてロングテールは強く意識」ケンコーコム後藤社長

http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/web2/2006/12/27/9338.html

 今回のゲストは、健康関連商品のオンライン販売を手がける、ケンコーコム株式会社の後藤玄利社長です。ケンコーコムが成功した背景にはどのような秘密があるのでしょうか。

■B2C市場に期待するも集客に苦労したスタートアップ時期

―まずは自己紹介をお願いできますか?

後藤氏
 ケンコーコム自体は70000以上の健康関連、ペット、介護など、を扱っているECサイトです。会社を作ったのは1994年で、最初はヘルシーネットという名前でした。ネットを始めたのは2000年です。

 実家が大分で、大正時代から続いている家庭医薬メーカーをやっていまして、それが理由で健康関連商品を扱っているわけです。

 僕自身は、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)でコンサルティングをやっていたんですが、1994年にヘルシーネットという名前で、ダイレクトメールを使っての通販を始め、その後Webを使うB2Cサイトとして2000年の5月にケンコーコムを開設しました。社名をケンコーコムに変えたのは2003年です。

―ネット販売をしようと思ったきっかけは?

後藤氏
 1999〜2000年にWebが急速に普及する中で、B2C市場が成長するという気がしたんです。ネットでデータベースマーケティングができるようになったわけで、CRMをPCベースでやれると思ったのが最初ですね。

 そこで、健康に関するB2Cを作ろうと考えました。ヘルシーネットでは実家の商品で、ききまんねん(喜喜萬年)という、さるのこしかけ(霊芝)をせんじたドリンクだけを売っていたのですが、ケンコーコムは50商品くらいではじめました。

―1999年から2000年というと、ネットバブルの後期ですね。

後藤氏
 立ち上げ期にちょうどネットバブルがはじけて、大変な思いをしました。B2Cのeコマースは将来有望という考えには変わりはなかったのですが、その当時はネットでモノを買う人は少なかったし、そもそも集客が大変でしたね。いいB2Cサイトを作ったとは思っても、どうやって顧客を集めればいいか分からないわけです。広告代理店に相談しても、「バナー広告を出せば?」というだけで…。とにかく、Webサイトに人が来ないことには何も始まらないので、 1カ月で2000万円くらい広告費を使ってみたりしました。最初の3〜4カ月で合計3〜4000万円使ってしまいましたね。ところがそれだけ広告費を使っても、月間売上は70万円くらいにしかならなくて、それまで5年間やってきていた蓄えは一気になくなって、資金繰りが大変厳しくなりました。

■品ぞろえの数と売り上げの相関関係

―資金はどうされたのですか?

後藤氏
 ベンチャーキャピタルから必死で金を集めました。事業会社からも投資をもらって急場をしのぐことはできました。でも、資金は入ったが、いずれにしても集客が大変で、難しい事は変わらないわけです。そのときに言われてたマーケティング手法は何でも試しました。メルマガや懸賞(ChanceITなど)も試しましたよ。結局、一人の購入客を獲得する金が数万円に達していたことに気がついたときには、バカバカしくなりました。

 クーポン券をメールでばらまいて、それを使って買ったら割り引き、というような手法の方がかえっていいくらいと思ったほどです。とにかく、集客方法が分からなくて迷走していたというのが本当です。必要コストと売り上げをトラックしていたが、どうやっても数万円かかっていて、これは結局B2Cというビジネスは成り立たないのか、とさえ思いました。

―それが好転したのはどういうきっかけでしょうか?

後藤氏
 半年から1年ほど苦闘したあとで、ふと気がついたんですが、なんだかんだいって、月商は伸びてきてはいたんですよ。これはなんでかな、と考えてみると、取扱商品数と月商に相関関係があるように思えたんです。調べてみると、月商を商品数で割ると、1万円くらいになっているわけです。つまり、商品数を1つ増やすと、月商が1万円上がるんです。これはどういうことかと思ってサイトへの訪問者数をいろいろと調べていると、Googleからのアクセスが急増してきていることが分かりました。

 Yahoo!トラフィックの中心だった時代には、Yahoo!ディレクトリからみんながアクセスするわけで、サイト単位の集客しかありません。ところが、Googleを使うと、検索結果はページ単位ですから、ページ単位の集客が可能になってきているわけです。そこで、スタンフォード大の論文などもみて、Googleを研究してみると、この検索システムがこれからの時代にマッチしていることに確信が持てました。Googleが良いと思うサイトを作る事がユーザビリティをあげることだ、と気づいたんです。そこで、そういうサイトにケンコーコムを作り直そうとしたわけです。

―具体的にはどのようにしたのでしょう?

後藤氏
 今にして考えると商品数が多いとページ数が増える、お客さんのキーワードにヒットする可能性が高まる、お客が来る、売り上げがあがる、という相関関係があったんです。つまり、商品数を多くすればするほど、検索されて集客につながる可能性があるということです。

 そこで、広告を出すのはやめました。とにかく品ぞろいを増やす事を考えたんです。そしたら広告をしなくて売上があがるというサイクルが見え始めました。

■どん欲に品ぞろえを拡充していくことが大切

―そのサイクルが見えて、事業そのものにどのような影響がありましたか?

後藤氏
 一番大きなことは、物流の方法を変えた事です。初期のころは物流を外部の会社にまかせていましたが、品揃えを増やすにつれ、だんだん追いつかなくなって、在庫管理が難しくなってきました。では、在庫をしないで品数を増やすのはどうしたらいいかと考えたんですね。もともとは福岡の卸しから東京の倉庫に持ってきて、そこから全国に出していたんです。首都圏に顧客が多いので、お客様に近いところに商品を置くというのは理にはかなっているわけですが、それでは在庫が減らない。そこで、倉庫を福岡の卸しのすぐ近くに置いたんです。一種のカンバン方式ですかね。

―デルモデルにも近いですね。

後藤氏
 そうかもしれません。お客様に近いところではなくサプライヤーの近くに倉庫を置くことで、急速に在庫を減らすことができました。これで問題が解決し、商品の種類も拡大させることができるようになりました。

―競合他社の追随はありますか?

後藤氏
コンペティターですか?爽快ドラッグ小林製薬グループ)が近いですかね。商品数でいうと2万〜3万点くらいあるはずです。ほかにはあまり見当たりませんね。

 結局この業界は、物流のインフラを作るために投資が必要なので、それが参入障壁になっていると思います。当社は福岡に2000坪の自社倉庫を持ち、宇都宮には1000坪の倉庫を借りています。配送はヤマト運輸に委託していますが、相応の投資をしているわけです。

 もう一つは、リアルの世界の常識でいうと、「小売りをやるなかでいい商品をどうやって選ぶか」、ということが大事と考えがちです。いかにして売れる商品を見つけるのが大事と思い込みがちなんですね。しかし、Webにおいてはその常識が足かせになる場合があると考えます。

 既存のバイヤーは自分が選ぶ商品がいかに良いか、悪い商品をいかに切り捨てるかを考えて、効率的な品ぞろえをしようとしますが、eコマースではむしろ、どん欲に取扱商品を増やして取り込むことが大切だと思っています。玉石混交かもしれないが、売れるかどうかはユーザーが決めるべきなんです。販売側が売れるかどうかを判断する必要はないと思います。ロングテールをどんどん長くしようと考えないとならないわけです。

 でも、リアルのプレイヤーはそういう割り切りができずに、なかなかネットに入って来られない、というところだと思います。

―逆にカテゴリ拡張していくうえで気をつけているところは?

後藤氏
 健康に関わることで、かつロングテールを生かして商品のバラエティが飛んでいる分野であれば手をつけようと思います。また、近所では必ずしも手に入らない分野にしぼる事ですね。

―送料はいくらですか?

後藤氏
 3000円までは送料490円。3000円以上は無料としています。

ロングテールをますます長くして物流インフラに成長したい

―最近ケンコーコムWeb 2.0企業として紹介されることが多くなっていると思いますが、それについてはどういう印象を持たれていますか?

後藤氏
 Web 2.0自体、何を持っていうのかはわからないですが、ロングテールのeコマースであるという認識はあります。ロングテールに対応すると、それに対して幅広い商品に対して、情報を充実させていくことになります。ということは、供給者側からの情報だけでは十分ではないですね。だから、ロングテールに対応するにはユーザーの実際の声を入れていく事は重要なんだとは思っています。

―その方法は?

後藤氏
 まだ模索中です。当社では、現在の7万点近い商品数に対して、約2000社の仕入れ先、そして1万に近いメーカーと取引しています。来年早々にはまず、そうしたメーカー側から、もっと突っ込んだ情報を提供していただくためのプラットフォームを用意できればと思っていますが。

―ユーザーのクチコミを利用することはいかがでしょうか?

後藤氏
 現在はYahoo!知恵袋ケンコーコムをつないでいます。健康商品を扱うことは、薬事法などの規制がある分野なので、コンプライアンス上、直接Q&Aを行うわけにはいかないんです。健康商品ビジネスの何が難しいかといって、健康上の悩みや効果を知りたい、ということがニーズであるのに、一方でコンプライアンス的には効果効能を訴えてはいけない、という難しさがあります。そこでYahoo!のようなパートナーと組むことによって対応しているのが現状です。とにかく、周辺のプレイヤーに集積してもらう目的で、付加情報を集めている状態で、そうして集まった情報をWebサービスで広く提供することも考えていきたいですね。

―分かりました。では最後に2007年の抱負をいただけますか?

後藤氏
 大きく軸は3つですね。1つ目は、既存の商品の情報を拡充すること。2つ目は流通サービスの幅広い展開。3つ目は、カテゴリを、従来より広げていくことです。

 物流インフラとしては、ドロップシッピングをやることを考えています。ケンコーコムは健康に関するロングテールを持っているわけで、当社ほど多くの商品を扱えない業者に商品を提供して、フロントストアとして売っていただけたらと考えます。

 結局のところ、eコマースの売り上げに対するドライバーは品ぞろえです。でも、ありとあらゆる健康のサイトがロングテールに対応しようとすると、共倒れしてしまいます。自分でハンドリングしない商品はケンコーコムから仕入れてくれればいいと思ってもらえばいいわけです。そうすると、さらに僕らはロングテールを長くしていくことができます。年に1回くらいしか売れない商品ももっと売れるようになります。そういうプラットフォームに徹することをやりたいですね。

―今日は長い時間、ありがとうございました。

小川 浩(おがわ ひろし)2006/12/27 00:00