INFOBARでユーザーの欲求を浮彫りに!業界動かした“デザインケータイ”の先駆者・深澤直人

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 初代INFOBARの発売から約3年。ついに「INFOBAR2」が姿を現した。KDDIMNPのスタートに合わせて、“切り札”を投入する。

 新時代のケータイのデザインはどこへ向かうのか――。その答えを求めて、auのデザインケータイ「INFOBAR」の生みの親であるプロダクトデザイナー深澤直人のオフィスを訪ねた。ミーティングルームに現れた深澤は、筆者の前に、10月31日に発表された新型端末「INFOBAR2」のデザインイメージを広げ、静かに語り始めた。

深澤直人[ふかさわ・なおと]
 1956 年山梨県生まれ。1980年多摩美術大学卒業。代表作に無印良品のCDプレーヤー(ニュヨーク近代美術館永久収蔵品)、携帯電話「Infobar」「neon」、家電雑貨ブランド「±0」など。近年は国内の大手企業のコンサルティングの他、B&BITALIA、Driade、Magis、 Artemide、Danese、boffiの他、イタリア、ドイツ、北欧などの多くの作品を手がける。受賞歴は60賞を超える

 「INFOBAR2では、四角い機械が、人間の身体に近づいた状態を形にしました。四角い飴を口の中に入れて、溶け始めた状態と言えば分かりやすいかな。四角い形状が、風化して適度に丸みを帯びたような変化が、初代INFOBARからのデザイン上の進化と言えるかもしれません」。

 初代INFOBARから引き継いだストレートタイプの本体に、最大の特徴とも言える大きなタイル型のキーがレイアウトされている。全体の大きさは変わらないが、液晶画面は、初代機よりも少し大きくなった。最大の変化は、深澤が言うように曲面で構成された本体の形状だ。初代機は、エッジの利いたシャープな印象を与えたのに対し、自由曲面で覆われたINFOBAR2は、優しく柔らかい雰囲気を漂わす。その分、人に近づいた趣を感じさせる。

 INFOBAR2は、機能面でも初代機から進化している。まず音楽再生機能が追加された。それに伴い、充電時に音楽を再生できるように、クレードルにスピーカーを搭載した。またテレビ視聴も想定し、液晶画面を大型化した。深澤が考える一歩先へと進化したケータイデザインが、 INFOBAR2に集約されている。

■純増シェアトップを後押し

 深澤が初代INFOBARの原型となったコンセプトモデル「info.bar」を発表したのは、2001年5月だった。その斬新なデザインは、携帯電話業界に大きな衝撃を与えた。当時、折り畳みスタイルで大きな液晶を搭載する機種が主流だったが、そうした流れに逆らうように、深澤はinfo .barで、ストレートスタイルに大きなタイル型のキーを配したデザインを世に問うた。その結果、多くのケータイ好きが、深澤の“策略”にまんまとはまった。

 KDDIは、こうした市場の声に敏感に反応し、03年10月31日にINFOBARを発売した。2003年10月からの8カ月間、 KDDIは、携帯電話の契約者数の純増数でライバルNTTドコモを抜いてトップを維持したが、INFOBARの発売が、この快進撃の起爆剤となったのは間違いない。

 これ以降、携帯電話業界でのデザインに対する見方が一変した。「携帯電話にもデザインが必要という考えに賛同してくれる人が急に増えましたね。身に着ける機械として、時計と並んで、デザインが大切という考えは以前からあったけど、その割には、実際の携帯電話のデザインは中身を伴っていませんでした。そんな時期にINFOBARが出たことで、ユーザーは興奮したのでしょう」と深澤は当時の熱狂を振り返る。

INFOBAR2
▲ サイズは初代INFOBARとほぼ同じ。本体は鏡面仕上げの自由曲面で構成されている。発売の時期は未定。「音楽もテレビもケータイで楽しむ時代にふさわしいストレートタイプのスタンダードを目指した」(深澤)

■折り畳み式への不満を形にした

INFOBAR
au design projectからの製品化の第一弾として発売された。「INFOBARは、最初から数年ごとにバージョンアップしていくことを考慮に入れて、原型となるプラットフォームをデザインした」(深澤)

 携帯電話のデザインに対する世の中の見方を変えてしまうほど影響を与えたINFOBARは、どのようにして生まれたのだろうか。

 深澤は当時の状況を説明する。「マスコミやキャリアなど多くの人たちが、今後の主流は折り畳み型だろうと見ていました。一方で僕は、それは違うんじゃないの、まだ決めるのは早いよと思っていました。そういう風潮に、ちょっと待てよという意味で出したのが、INFOBARです」。

 折り畳み型が主流になるという声の背後には、パケット通信やコンテンツ販売を拡大させたいキャリアと、少しでも大きな液晶デバイスを組み込みたいメーカーの意向が少なからず影響を与えていた。

 しかし、そうした流れにすべてのユーザーが満足しているわけではなかった。深澤のINFOBARは、どこか満たされないユーザーの潜在ニーズをしっかり受け止めたのだ。「折り畳み型を主張していた人たちは、INFOBARが出ると『こういうのが欲しかった』と言い始めました(笑)。予想通りの反応でしたね」(深澤)。

■不満の高まりを逃さず製品投入

neon
▲ 本体の背面に赤色LEDによって、文字が表示される。全体を四角く装飾を排除したことで、文字を表示する背面にコミュニケーションツールとしての機能を持たせた。「ハードウエア全体としてのインターフェースにするデザインを実現した」(深澤)

 その後、深澤は皮をむいたジャガイモのような形状の「W11K」と装飾を削ぎ落とした「neon」をau design project発の端末として製品化してきた。これらはいずれもユーザーから熱烈に支持され、auのブランドイメージの向上に貢献した。

 こうしたデザインケータイを成功させるには、一つの“セオリー”があると深澤は言う。「新しい機能やサービスが登場するとユーザーの関心は一気にそこへ集中します。そういうタイミングでデザインケータイを出すと失敗しやすい。しばらくすると、ユーザーの中で端末のデザインへの不満が高まり始めます。このタイミングで、デザインケータイを投入できるかが成功を左右します。先頭で引っ張っていくよりも、後ろから付いていくぐらいの方が、デザインケータイは上手くいくんですよ」と深澤は打ち明ける。

 果たして深澤の“読み”はINFOBAR2でも的中するのか。INFOBARによって歩み始めた日本のケータイデザインは、INFOBAR2によって新しいステージに足を踏み入れるのかもしれない。
(日経デザイン=太田憲一郎)