“mixiそっくり”な理由は?So-netなど数千のSNSが使う「OpenPNE」,開発元の手嶋屋 社長に聞く

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060726/244367/?ST=print
 日本最大のSNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)「mixi」(ミクシィ)にそっくりなオープンソースSNSシステム「OpenPNE」(オープンピーネ)が話題を集めている。大手プロバイダのSo-netは誰でもSNSを運営できるサービス「So-net SNS」のシステムにOpenPNEを採用した(関連記事)。OpenPNEを開発する手嶋屋の手島守・代表取締役に話を聞いた(聞き手・構成はITpro編集 武部 健一)。

      • OpenPNEを開発したきっかけを教えてください。

 もともと2003年ころに「PNE」という携帯電話の転送メール・サービスを実験的に提供していました。そこでPNEのユーザーのために携帯電話から使えるレンタル掲示板を設置したのですが,掲示板がものすごく“荒れる”。これは自分で掲示板を作らなければならないなと思っていた2004年6月ころ, mixiGREE(グリー)といったSNSが流行してきました。
 これらのSNSを見ていると,ユーザーの身元がはっきりしているので荒れていません。「これはいいぞ」と思い,SNSの要素を取り入れた掲示板を作りました。そうしたら100人や200人のユーザー数でも荒れていた掲示板が,5000人や6000人といったユーザー数になっても荒れなくなりました。このような形で,2004年8月ころに携帯電話用のSNSとして開発がスタートしました。この段階ではまだクローズド・ソースです。
 その後,2005年1月にパソコン版を作りました。これはある教育関係の会社からパソコン版が欲しいとの要望が来たので,それに応じたものです。そのころ,SNSはますますブームになり,mixiのユーザー数は幾何級数的に増えている。そこで,SNSの開発を真剣に考えるようになりました。SNS とは何か,SNSはどうあるべきか,SNSはどう発展してゆくのかと深く考え始め,同時にオープンソース化の検討も始めました。
 考えてみると,SNSのソフトはことごとくオープンソースの発展条件に合っていました。これは「伽藍とバザール」の受け売りですが,オープンソースにすべきソフトは信頼性が必要で,“ネットワーク効果”,つまりみんなが使えば使うほど価値が高まる性質を持ち,公共資産のようになるものです。
 手嶋屋としては「SNSは複数あるべきだ」と考えたので,オープンソースにした方が良いとの結論に達しました。オープンソース化に向けて,お客様の案件で使ったソースコードを入れるわけにはいかないので,クレンジング(削除)などを施しました。そして2005年春にオープンソースの「OpenPNE」として公開しました。

      • 現在,どれくらい使われていますか。

 So-net SNSが登場したこともあり,OpenPNEを使っているSNSは数千程度はあると思います。一番ユーザー数が多いのは「Otaba」というSNSでしょう。
 OpenPNEの開発の目標は,1家4人の家庭から企業,宗教団体など,すべての組織やネットワークに対してSNSのエンジン,つまり人と人とが交流する際のプラットフォームを提供することです。

      • mixiにユーザー・インタフェース(UI)が非常に似ていますね。

 当初はいろいろなSNSを分析して,それぞれの良いところを取り入れようと思いました。ただ,取り入れているうちに,自然とmixiの要素だけが残ったのです。やはりmixiは使いやすくて楽しく,ユーザーのことを考えて作られています。特にUIが優れていると思います。
 mixiを参考に開発するうちに,2005年7月にリリースしたOpenPNEのバージョン1.2で,ほぼmixiと同等の機能になりました。そこからは徐々に機能を追加し,mixiと異なる機能も取り入れています。例えば,mixiは完全に閉じた世界のSNSですが,人によってはオープン制にしたいという要望もあるでしょう。そのような機能やレイアウトを変える機能,「足あと」を付けない「忍足」機能などを実装しました。

      • mixiの優れた点はどこだと考えますか。

 mixiは主要ページのレイアウトを統一しています。主に3種類のレイアウトがあり,どのページもそれらのいずれかでできています。SNSはページ数が非常に多くなるので,一つひとつのUIを別にするとユーザーが分からなくなります。mixiは多くの機能を詰め込んでいるのに,ユーザーには使いやすいのです。どのページに行っても心理的な安心感があります。一方,他のSNSはUIがバラバラ。ここがmixiとの大きな違いでしょう。
 あと,mixiは1画面に同じ人の写真が1枚しか表示されません。細かいことのようですが,1枚しか表示されないので「写真が人のように」感じます。これが「足あと」機能の効果にもつながっていると思います。つまり,「人が訪問してくれた」と実感できるのです。
 1画面の中に同じ人の写真が複数枚表示されると,それは単なる写真に感じます。他のSNSは1画面に複数枚の写真が出る。そうするとコピー人間みたいで,その写真が“人”ではなくて,写真にしか見えないのです。mixi以外のSNSにも「足あと」機能はありますが,足あとが残された効果では mixiの方が「どきどき」すると思います。

      • OpenPNEのレイアウトはmixiに似過ぎだとも思えますが,著作権的にはどう考えますか。

 OpenPNEオープンソースのライブラリ以外,すべてゼロから書かれているので著作権的には大丈夫だと考えています。他の方が著作権を持つ画像やCSSCascading Style Sheets)なども混入していません。ただ,mixiがすばらしいと思って作っているものなので,クレームが来れば,次のバージョンから徐々にレイアウトを崩すことはあると思います。ミクシィ社からのクレームはまだないですが,内容的に妥当なクレームであれば対応することも考えます。

      • OpenPNEの稼働に必要なシステム構成を教えてください。

 基本的にはLAMPLinuxApacheMySQLPHP)です。OpenPNEソースコードPHPで書きました。OSは FreeBSDWindowsでも動きます。Mac OS Xでも動くでしょう。加えて,メール・サーバーはsendmailPostfixをサポートします。ただ,qmailでも動きます。

      • スケーラビリティ(拡張性)はどれくらいですか。

 最大20万ユーザーくらいをめどにしたスケーラビリティの設計になっています。その場合,サーバーは20〜30台必要です。だいたい1万ユーザー当たり1台となります。
 現在のソースコードでシングルマスター/マルチスレーブのデータベース(DB)分散ができます。画像の処理が重いので,画像DBだけ別サーバーに置くことも可能です。画像DBもシングルマスター/マルチスレーブで分散できます。また,セッションをDBに入れることでフロントのWebサーバーの分散処理にも対応します。
 この方法でサーバーの台数を増やし,マスターのDBのサーバーを高速にすれば,何十万人というオーダーのユーザー数に対応できると思います。 mixiのように何百万人のオーダーになるとこの方法ではまったく追いつかず,マスターのDBも分散したり,ユーザーのDBを何万人単位で分割したりといった処理が必要になるでしょう。しかし,これをオープンソース・ソフトでやると,ソフトの配布が難しくなります。

 GPLです。ただコミッター(開発者)がまだ手嶋屋のスタッフだけです。手嶋屋が全著作権を持っているのでライセンスは変更できます。どうしてもクローズド・ソースで使いたい方には,1SNS当たり7万円でクローズドにできる権利を与えるデュアル・ライセンス方式を採っています。ちなみに,コミッターの数は5人。メインは1人です。
 もっともライセンス・ビジネスで儲ける気はないので,近いうちに「PHPライセンス」に切り換えたいと思っています。これでソースコードの再公開義務がなくなるので,企業内に導入して改造しても,公開する必要がありません。より多くの企業で導入しやすいようにしたいと考えています。
 手嶋屋としてはOpenPNEASP(Application Service Provider)やカスタマイズ開発で商売する計画です。現在は,OpenPNESNSのプラットフォームとして広めている段階です。

      • 外国語に対応していますか。

 OpenPNEバージョン2.0ではUTF-8に対応しています。現時点では中国語の繁体字版と簡体字版,クロアチア語版,英語版のOpenPNEが存在します。韓国語版もそろそろ完成するころです。
 「カニチィ」というOpenPNEを使った三カ国語対応の日中交流SNSを見てもらえば分かりますが,日本語と中国語が混じっています。外国語対応はもっと進めたいのですが,翻訳やローカライゼーションなどの人手が足りません。

 OpenPNEは手嶋屋だけで新機能を作ってゆくよりも,「小窓」機能やAPIApplication Program Interface)公開などで,いろいろなプログラムをのせられるようにします。YouTubeなど外部のサービスを取り込めるようにもなりました。 YouTubeの場合,貼り付けは1行の記述でできます。このような機能を有効に活かしたいです。
 例えば,「数独」のアプリケーションなどをSNSという人が集まる場所に置けば,早解き選手権などのイベントが自然と発生するでしょう。「Googleマップ」や写真共有サービスの「Flickr」も貼れるようになります。

      • 企業向けの機能拡張を考えていますか。

 8月をめどに「PNEBIZ」というOpenPNEを改造して作っていたグループウエア機能付きSNSOpenPNEに組み込むことにしました。これでスケジュール管理やTODO,施設予約など,グループウエアとして必要な最低限の機能を備えることになります。ただし,あくまでもメインは SNSです。
 ファミコンを買ってもらうときに「数学ゲームがあるから」といって親に頼むんだけれど,2個目からはスーパーマリオを買うといったことがあるでしょう。企業でもOpenPNEを導入する際に「グループウエア機能が使える」と説明すれば,導入しやすくなると思うのです。
 企業で導入しやすくするにはインストールをもっと簡単にする必要があるでしょう。例えば,フリーになった仮想マシンVMware Player」といっしょに配布するといったことを考えています。
(武部 健一=ITpro)[2006/07/26]