Web2.0的キーマンに聞く Lunascape近藤CEO、「多様性を大事にしたい」

http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/web2/2006/07/21/8270.html
 今回のゲストは、国産WebブラウザメーカーのLunascape株式会社代表取締役兼CEOの近藤秀和氏です。Webブラウザメーカーとしては、フェンリル以来の登場になります。OSからWebブラウザにプラットフォームが移り、それが今ではWebの上にソフトウェアやデータが存在する、つまりWebがプラットフォーム化している、という考え方がWeb 2.0です。それでは、Webブラウザメーカーはどういう位置づけになるのでしょうか?

ソニーを辞して起業

―恒例ですが、自己紹介をお願いできますか?

近藤氏
 Lunascapeの近藤です。もともと、2001年8月にLunascapeの最初のバージョンをリリースして、配布したことから始まっていますが、そのときはまだビジネスをやろうと考えていたわけではなくて、大学院生のときの研究で、プラットフォームとしてWebブラウザが必要だったので、作った、というのが本当のところです。たまたま、配布し始めたらインプレス(現、Impress Watch)の「窓の杜」でとりあげられたことで、一年未満で10万ユーザーにまで達して、話題になりました。
 そのあと、ソニーに就職したんですよ、いったん。(創業者である)井深さんのソニースピリットに共感していて、ソフトウェアエンジニアとしてソニーなら何かできるかと思ったので入社したんです。
 ところが僕が入ったときのソニーは、やっぱりハードメーカーだったんですね、コンピュータサイエンス学科からの出身からすると、ちょっとダメかな、この会社じゃないと思いました。
 当時の社長も技術者ではなくビジネス思考で、優秀な技術者が辞めていたようにも思います。で、2003年3月に辞めて、とりあえず早稲田大学の大学院の博士課程に入って様子をみていたんですが、その後、IPA未踏ソフトに応募して、そこでお金をいただいたことで自分でやるためのメドがたってきたわけです。2004年の8月だったかな。

Googleの創業者たちの起業の流れに通じるものがありますね。

近藤氏
 そうですか?(笑)確かに僕は、2001年にGoogleに関する論文を出しています。「サーチエンジンGoogle」というタイトルなんですが、当時はそこそこ話題になりました。評価された点は、技術のことより、ビジネスモデルからGoogleが成長する過程を書いたところでしたね。 Googleの創業者たちは、自分たちで検索エンジンを作って、2テラバイトのサーバーをつくって、それで30億円投資してもらった。これはすごいな、と。自分で起業したのも、そんな思いが動機にもなったのかもしれません。

Webブラウザがコアではなく、Webブラウザを作る技術がコア

―最初の資金はIPA未踏ソフトの援助だったわけですね?

近藤氏
 ええ。

―従業員数は?

近藤氏
 今は15名ほどです。

―事業モデルを教えてください。

近藤氏
 ひとつはWebブラウザというものを、Webよりも前にあるものとしてみたときに、Yahoo!などのポータルが展開しているような広告モデルが成り立つと思いました。で、サードパーティツールバーのバンドルや、検索窓をWebブラウザに設けて、広告を出していただこうと。Webブラウザのビジネスは、有償販売か、当時Operaがやっていた広告のモデル、あるいはマイクロソフトにおけるInternet ExplorerIE)のように他のビジネスモデルとのセットしかなかったと思います。もう少し上手な広告モデルを展開することは、IE 6が進化していない状況であれば、チャンスがあると思えたんです。

―なるほど。

近藤氏
 そのアイデアを膨らませるために、コンテンツマッチ広告の分野ではRSS広告社さんと提携して、実証実験を進めています。そして、もうひとつのビジネスモデルは、WebブラウザOEM提供です。われわれは、会社としてのコアを、Webブラウザを作る技術そのものであって、Webブラウザそのものがコアであるとは考えていないのです。だから、他社ブランドでの展開を自然と考えました。トヨタさんに提供しているTOYOTA browserがいい例ですね。
 Web 2.0の考え方にからむと思うんですが、Webブラウザもただ一つである必要はないと思っています。Webブラウザはネットの入り口ですが、もっと多様であってもいいはずです。ユーザーの好みに合わせたり、企業側のブランドに合わせたWebブラウザがあっていい。そこで、ブランディング・プロモーションのツールとして、Lunascapeを企業にOEM提供することを考えたわけです。

―その製品の特徴はなんでしょう? エンジンは? Macには対応してないんですよね。

近藤氏
 IEGeckoも使っています。Macでは動かないですね(笑)。
 特徴としては、タブ型、はいまさらかな(笑)。まあ、まずはIEとの互換性でしょうね。IEのサイドバーやツールバープラグインはすべて使えるんですが、これはIE 7でさえうまくいってないんですよ(笑)。Firefoxプラグインもまあまあ使える、だからユーザーに親切で、難しくない、といえると思います。
 RSSリーダー機能もついています。お気に入りをクリックするとポップアップします。RSSだとは意識させたくないですけど、FirefoxSafariよりは使いやすいと思いますよ。

■ケータイ版Webブラウザには興味がない

―国内のシェアは?

近藤氏
 シェアは国内数パーセントくらいでしょうね。

―競合相手は誰でしょう? 他のWebブラウザをどう意識しますか?

近藤氏
 あまり意識しませんが。IE 6はタブじゃないし、RSS機能がないから自然に乗り換えてくれると考えています。IE 7は、機能アップしていますが、第三の切り口(トヨタの例のように、ブランデッドされたもの)で勝負できるかなと。
 同じWebブラウザでもマイクロソフトのものはOSに近いと思うんですよ。でも、われわれのWebブラウザはユーザーに近いところにあることが大きな違いですね。

RSSリーダーは競合であると思いませんか?

近藤氏
 いや、方向性は違うでしょう。分野が違うというべきかな。RSSを読むことに特化したものであって、Webブラウザとは別物と考えます。

―では、Webブラウザとはなにか、という問いにはどうお答えになりますか?

近藤氏
 ネットへの入口、ですね。
 ただそれはHTMLではなくてもいい、フルフラッシュのWebブラウザがあってもいい。日本語を縦に表示してもいい、そういうWebブラウザがあってもいい、と考えています。

―今後の御社の方向性を教えてください。

近藤氏
 われわれは、Webブラウザ制作に特化するとともに、それを支援するサーバーシステムの開発に集中していくつもりです。

Webブラウザはわかりますが、サーバーシステムとはなんでしょうか?

近藤氏
 GoogleはWeb上ですべて解決しようとしていますが、われわれはクライアントソフトも必要だと考えています。とはいえ、クライアントソフトだけでもだめで、サーバーサイドからの支援システムが必要になるとは思っています。RSSフィードの共有などはサーバーサイドでないとだめでしょう。

―なるほど、そういう意味ですね。ケータイ用のWebブラウザには興味ないですか?

近藤氏
 ないですね。日本の場合、キャリアが強すぎて自由がないですから。ケータイが全部Windowsベースになったらやりますよ。

―今の資本金はまだ少ないとお聞きしましたが、資金集めはしないのですか?

近藤氏
 今は足りてます。ただ、事業モデルとしては、今後戦うとすればマイクロソフトだったりGoogleに、突きつめるとなってしまうので、資金需要もでてくるかもしれないですね。タブブラウザというと、正直知名度はどんぐりの背比べです。非IT業種では誰も知らないんじゃないですかね。アクティブなネットユーザーは日本には1000万人もいないのではないかなあ? その意味で、すそ野を広げたいと思ってはいますね。そういうすそ野を広げていく最初のソフトがWebブラウザなんだろうと、思っています。

―なるほど。そういえば、社名の由来を聞いてなかったです。

近藤氏
 Lunaは月、IEは地球のモチーフなので、われわれは月でいこうかと。Scapeはネットスケープからとりました。

Web 2.0にはいまさら感があるが、APIの公開はありがたい

Web 2.0というトレンドについてお聞きしておきましょう。

近藤氏
 Web 2.0自体には懐疑的な立場です。概念をまとめたということは意味があるが、いまさら感はあるかな、と。みんながいっせいにそちらに動き出したことはいいことなんですけど。ただ、意味するところはネットのあるべき姿ではあるし、トレンドとしてYahoo!GoogleAPIを公開してくれるようになったので、Webブラウザ側としてはありがたいと感じています。

―わかりました。では、最後になにか言っておきたいことがあれば、お願いします。

近藤氏
 そうですね、では学生に向けて。
 みんな、まだまだ大企業志向だけど、もっと多様性があってもいいと思っています。大企業に入って辞めたくなった人から、よく相談受けるんですけど、まず自分でやってみれば?ということは言っておきたいですね。ベンチャー業界を盛り上げたいという気分です。

―近藤さん自身はベンチャーの経営者として、いまはどんな気分でしょう?

近藤氏
 僕自身は、もし(アメリカのように)優秀なプロの経営者がいて、僕と代わってくれるならすぐに代わります。すぐ代わります、ほんとに(笑)。CTOでいるほうがたのしい。やはり僕はエンジニアなんですね。経営を優秀な方に任せられたら、どんなにいいか、と思っています。

―わかりました(笑)。本日はどうもありがとうございました。

小川 浩(おがわ ひろし)2006/07/21 00:00