「ザ・プレミアム・モルツ問答ブログ」とTV・雑誌・看板・工場・Webとの相乗効果

 企業経営に生かすblog道  2006年05月29日
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20060524/238940/
 商品PRとマーケットリサーチを同時に行う場としてブログを活用する試みが、様々な形で始まっています。最近スタートした企画の中では、サントリーの高級ビール「ザ・プレミアム・モルツ」のキャンペーンが、ブログの特性をうまく生かしているので注目です。ブログやWeb単体ではなく、既存の広告メディアとの相乗効果が絶妙だと思えるのです。

モンドセレクション最高金賞受賞というわかりやすい魅力

 昨年来、街角の大看板で、ザ・プレミアム・モルツの広告に触れた人も少なくないでしょう。私もその「地味な広告」に気づいたひとりです。いつもはビール広告のキャッチコピーなど気にしないのに、なぜか「最高金賞」という言葉が目に飛び込んできたのです。
 昨今ビールは、安い酒税を求めて第2第3のビールが生まれたり、健康を考えてカロリーやプリン体をカットしたりと、商品体系が複雑化しています。しかも、商品名と新しい機能とが一致しないので、私などは悩んでしまいます。まるで、次々に繰り出される変化球についていけないバッターのようになっているのです。
 そんな中で、権威のある国際コンペで、日本初の最高金賞を受賞したらしいという話や、いかにも高級そうな名前やデザインは「直球どまん中」で、私にもわかりやすかったのでしょう。いわば打ちやすい球が飛んできたのです。
 ブログやポッドキャスティングの台頭で、今後ますます情報が氾濫交錯する中で、商品特性の「わかりやすさ」というのは、企業がメッセージを受発信する際の重要な条件でしょう。例えば、WBCワールド・ベースボール・クラシック)優勝で、あれだけ日本中が沸きたち、個人ブログで関連記事があふれたのはなぜでしょうか?おそらく「日本人なら誰しも親しみのある野球で、日本が世界に勝った!」という「非常にわかりやすいニュース」だったからでしょう。
 商品や程度こそ違え「誰もが飲むビールで、日本が世界にビールの本場の国々に勝った」というのは、わかりやすいメッセージです。その事実を知るだけで、 WBC優勝と似たような爽快感と興味を覚える人は多いのではないでしょうか。こうしたわかりやすいメッセージと関連ニュースが、ブログを通じて多くの愛好家を巻き込む原動力になると考えます。

テレビや雑誌で「飲んでもらいたい人」と「シーン」を伝える

 しかし、いくら「わかりやすい第一印象」に好感を抱いても、「最高金賞のビールで最高の週末を」と言われただけで、「どんな人が送るどんな週末が最高なのか」をわかりやすく伝えることはできません。この状態で、ブログを初めても「群盲象をなでる」状態になって、ブログも商品イメージも制御不能に陥ることでしょう。そこで重要なのが、多くの人に生き生きとしたヴィジュアルを伝えるメディア、テレビや雑誌の広告ということになります。
 ザ・プレミアム・モルツのTVCFでは、「最高!」の一言が決まるロックシンガーの矢沢永吉さんが、自らイタリアンのおつまみアクアパッツァを作って、おいしそうに週末ビールを飲んでいます。「世界に通用する仕事をし、自らの手で最高の人生を切り開いてきた大人の男の、静かで優雅な週末。誰よりも男らしいのに、自分の大切な時間には自ら一番好きなおつまみを作ることさえいとわない。自分で自分にご褒美を送る」そんな人生観とライフスタイルを、短い時間で印象的に伝えるには、やはりテレビが一番でしょう。
 そして、雑誌との広告やタイアップでは「BRIO」を重視していることがわかります。この雑誌は、ちょうど私の世代、30代40代が中心。大学時代に女子大生雑誌「JJ」に胸をときめかせ、奥様が雑誌「VERY」を卒業して「STORY」を読んでいるような、優雅な働き盛り男性が愛読する雑誌です。
 自分なりの価値観と美学を持ち、ファッションに家に車に時計にレジャーに独自の高級品を求める男性に、まずは最高金賞のビールを試してもらいたいと考えたはずです。「贅沢な時間のレシピ」という広告記事では、一流の料理人がこのビールに合うレシピを作っています。
 こうしたテレビや雑誌で形成される、特別な著名人による特別なヴィジュアルは、「最高金賞」という中核メッセージを取り巻く「高級イメージの同心円」において、第一番目の輪だと言えましょう。

公式Webで高級店と高級ユーザーのイメージを付加

 テレビ・雑誌が作る高級イメージの外側には、もう少し身近でとっつきやすい「高級イメージ」が必要です。それを形成するのに、公式ウェブサイトが一役買っています。ここでは、モンドセレクション矢沢永吉さんのテレビ広告などのコアイメージがなぞられる他、ザ・プレミアム・モルツが飲める店、売っている店が紹介されています。
 この紹介ページでは、いずれもプレミアムなイメージを持つお店が並んでいます。まるで、大人の雑誌のグルメページを思わせる店の情報が並ぶことで、自ずとビールの高級感も高まります。こうした、特別な店の特別な料理には、特別なビールがふさわしいというメッセージを暗示しています。これが、あとでブログを通じて、「プレミアムモルツにあうおつまみは?」といった様々な問いかけをする際の「共有イメージ」にもなります。
 そして、注目に値するのが「愛飲ユーザーの声」を紹介するページです。人気放送作家小山薫堂氏によるポッドキャスティングのように、もっと、著名文化人やアーティストの意見ばかりを並べることもできたはずです。
 しかし、あえて30代〜50代を代表して、無名スペシャリストとビジネスパーソンの声を3人分掲載しているのです。幸か不幸か、今の賢いネットワーカー型生活者は、有名人のコメントが「お金で買える広告」であることを見ぬいています。誉められれば誉められるほど、うそくさく見えたり、しらけたりするのです。
 また、こうした無名でありながら「特別な仕事と特別なライフスタイル」を持つ人をご紹介することで、ブログにどんな人の意見を求めているかという具体的なお手本にもなるのです。

ここまでの準備があって初めて問答ブログが生きる

 そしてザ・プレミアム・モルツの高級イメージ同心円で「テレビ・雑誌」「公式Webサイト」のまた外側に「公式ブログ」が広がっています。
 公式サイトを良く見れば、その左下に、ブログへの誘導アイコンが置かれています。ブログへの誘因は今のところ旅行券10万円の懸賞、トラックバックキャンペーンです。
 このキャンペーンを通じて、知りたいこと、発信して欲しいことは「あなたの最高の週末、最高のビール体験」でしょう。
 ブログを開くと、公式サイトよりはリラックスできる親しみやすいデザインが目に飛び込みます。残念ながら、デザイン表現において通常のWebサイトに一歩劣るブログでは、高級感を出すことはできません。しかし親しみやすさと、投稿しやすい雰囲気をかもし出すことはできます。そこで、こうしたデザインイメージの使い分けが重要になるのです。
 このザ・プレミアム・モルツ・ブログの主役は、ラジオのディスクジョッキー(DJ)ならぬブログジョッキー(BJ)の後藤さんです。往々にして発信者の顔が見えなくなりがちな企業ブログにおいて、今後、ますますBJのキャラクターが重要になるでしょう。ラジオ番組の人気がDJに左右されるように、 BJが人気者になる必要があるのです。
 このブログはいわゆる問答ブログで、愛読ブロガーのみなさんに「お題」を出しては、投稿トラックバックを集めるというスタイルです。こうした問答ブログでは、いかに答えやすく、読んで面白く、営業目的にも合う「質問」を考えるが重要になります。例えば、ここでは、「ザ・プレミアム・モルツに合う料理は?」というお題が投げかけられていますが、これは誰でも答えやすい質問です。
 ただし、トラックバックが増えてくると読みきれなくなりますから、もっと質問を絞り込む日が来るでしょう。例えば「中華料理は?」「3分で作れるおつまみは?」と質問を分けていけば、いずれ情報の蓄積が進んだ時に読者に親切なブログになります。
 また、数あるトラックバックの中から、良い意見をピックアップして、記事で取り上げることもBJの大切な役割でしょう。ちょうど、ディスクジョッキーが面白い投稿ハガキを番組で取り上げるようなイメージです。
 このサイトにトラックバックされた、料理のお題に対する答えを見ていても、テレビ・雑誌・公式サイトで作られた「特別なビール」という共通イメージが生きているようです。ピント外れの意見がまぎれて、議論が発散しないのは興味深いことです。おそらく、この場を荒らすと、自分が「特別でない野暮な人」に見えてしまうという意識が働くのではないでしょうか?
 例えば、短く「枝豆」と答えられていた方も、ありきたりの回答に対して軽くわびたうえで、枝豆は枝豆でも高級な「茶豆」であると書いています。この回答一つ見ても、明快な商品イメージを、しっかり既存のマスメディアでイメージを伝えておくことが、ブログ開設後、意見がぶれないようにするための要件だとわかります。

問答ブログを通じて、キャンペーン開発と店舗開発

 今後、このブログでどんな「お題」が設定されるのかが、今から楽しみです。もし私がBJならば、ぜひお聞きしてみたいのは、例えば「このビールを飲みながら、聴きたい音楽は?見たい映画は?読みたい本は?」です。
 おそらく、その回答は、このビールに合うコンテンツであると同時に、このビールを愛する人の「趣味のよさ」をあらわすものになるでしょう。そして、ビールのイメージをさらに高めることになりそうです。
 また、こうした回答を生かして、さまざまな愛飲者や常連ブロガー向けのサービスを開発することができます、おそらく夏の一番ビールのおいしい時期に、愛飲ブロガー限定で、ビール飲み放題の野外コンサートを開いたり、シネコンを貸しきってビールが合う洒落た映画のオールナイト上映会をすることもできましょう。
 さらには、最高金賞ビール似合う音楽のコンピレーションアルバムを制作して限定販売したり、ビールを飲みながら読みたい本のプレゼントをすることも考えられます。
 あとは、「ザ・プレミアム・モルツが似合うのに置いてないお店は?」というお題もいいかもしれません。そこで紹介されたお店が、そのまま、店舗開発に役立つリストになるはずです。また、営業の人たちが店主に「最高のビールが似合うお店にネットで選ばれました」と話のきっかけにもなるはずです。

工場見学などのオフラインに誘導するためのブログ

 このブログには、ふたつのリンクが張られています。一つは当たり前ですが、ザ・プレミアム・モルツの公式ブログ、もう一つは驚いたことにビール工場見学へのリンクなのです。
 これは、実はブログ活用に重要なことなのです。マス広告であれ、ブログであれ、最後はもっとも強力なオフラインメディアに誘導するのが、商品広告の終着点だということを明示しています。おそらくサントリーでは、ビール工場で見学してもらって、ザ・プレミアム・モルツを飲んでいただけたお客様の多くを、愛好家にできるという自信があるのでしょう。
 このブログの最初のお題が「工場見学」であり、そこに60件ものトラックバックがついていることを見ても、ブログ活用の新たなセオリーを感じます。ブログから、オフラインイベントでの実体験へと誘導し、その体験談を再度ブログにフィードバックしていただく。このブログと実体験の相互作用が、お客様ブロガーとの企業との絆づくりに重要なのでしょう。
 あとは自慢の工場で、四季折々の、あるいは月々の、常連ブロガー限定プレミアムなビールイベントが開かれれば申し分ありません。この時期、工場でしか飲めない、特別なビールがあれば、他には特別なイベントも懸賞もいりません。いや贅沢を言って、公式サイトに登場しているような特別な料理人を呼んで「特別なおつまみ」も作っていただきましょう。
 プレミアムなビール飲み放題コンサートや映画上映会と合わせて、こうしたプレミアムな工場体験=最高のサービスが、最高金賞の味わいとひとつになる体験を、愛飲ブロガーたちに提供するわけです。その時の様子や感動が「お客様の生きた言葉」となって、ブログを通じて実況中継される時、お客様ブロガーと企業とが一体となった新たなブランド神話が生まれることでしょう。
▼「ザ・プレミアム・モルツ」ブログキャンペーン http://premium.blog.suntory.co.jp/